« 読書:白夜を旅する人々 (著)三浦哲郎 | Main | 最低のサイクリング(延岡~宇目) »

August 31, 2010

8月31日 (暦の話)

 現在の太陽暦の原型は紀元前153年にローマで原型が作られた。そのときの月の名前およびその意味を、以下にずらりと並べる。

 1月(January)=Janus 門の神
 2月(February)= Februs 贖罪の神
 3月(March)= Mars 軍神
 4月(April)=Aphrodite 愛の女神
 5月(May) =Maius 繁殖の女神
 6月(June) =Juno 大神ゼウスの妻ヘラ
 7月(Quintilis) =quintus 5
 8月(Sextilis ) =sex 6 
 9月(September) =septem 7
 10月(October) =octo 8
 11月(Nobember)=nobem 9
 12月(December)=decem 10

 1月から6月まではその月にちなんだ神の名前が月の名前となっている。しかし7月からは、神の数がネタ切れになったというわけでもないだろうに、数字そのものが月の名前になっている。たぶん途中でいちいちその月にちなんだ神を探すのが面倒になったからであろう。古代ローマ人ってけっこうアバウトなところがあったから。
 なお、月の数字が2つずつずれているのは、紀元前153年以前は3月が一年の初めの月であり、3月が1月だったからである。

 この暦は一年の日の数が365日に10日ほど足りなかったので、ユリウス・カエサルによって改訂が行われ、以後ユリウス暦としてヨーロッパで長く使われることになった。

 ところで、先のローマ暦とユリウス暦は、7月と8月の名前と違っている。
 まずは7月(July)。カエサルが紀元前44年に暗殺されたのち、カエサルが神格化されたため、カエサルも暦のなかで神々とともに名を刻む資格を持ち、カエサルの誕生月の7月が、カエサルの名前Juliusからとられ、Julyとなった。
 次いでカエサルの後継者であり、ローマ帝国初代皇帝であるアウグストゥスが神格化されたことにより、カエサル同様に、アウグストゥスの誕生日の月の8月がAugustusの名を使いAugustとなった。

 ちなみに30日と31日が交互となる太陽暦において、なぜか8月のみは先の7月に続いて31日ある。これは、「アウグストゥスがユリウス・カエサルの月が31日あるのに自分の名の月が30日じゃ、自分の位が低いみたいで嫌だと言って、2月から無理やり1日持ってきて30日を31日にした」という説が、いちおう巷間ひろく伝わっており、信じている人もけっこう多い。しかしアウグストゥスという人はそういうことはしないタイプの人であり、それはただのホラ話である。だいたい8月はAugustという名前になる以前から、31日あった。ユリウス暦が紀元前45年に始まった時点で8月は31日と決まっていたのである。(参考URL→Julian calendar
 とにもかくにもこうやって、月の名前は1月から8月まで神の名前を持つことになった。ならば、残りの9月から12月までも現人神であるローマ皇帝たちの名前がつけられていってよかったはずだが、現在に残る暦では、8月のAugustで打ち止めである。

 じっさいのところ、アウグストゥスの後を継いだ二代目皇帝ティベリウスも、その誕生日の月11月を、皇帝の偉大さを讃えるためにティベリウスという名前にしようという法案が、元老院(国会みたいなもの)で議題となっている。
 タキトゥスの史書「年代記」を読むと、ローマの歴史ある元老院も、帝政時代には、議員たちは皇帝にへつらう阿諛追従の徒になり果てていたようで、とにかく皇帝に気にいられるためには何でもする、というふうな法律をいくつも定期的に出している。
 ティベリウス帝はきわめて有能であり、その実務能力の高さは歴代皇帝でも図抜けたものがあって、たしかに偉大な人物であった。しかし彼は、この手のこびへつらいは大嫌いな人であった。
 「お前らそんな下らん法律をつくるより、ちゃんとまともに仕事しろ。だいたい皇帝ごとに月の名前を変えていたなら、13人目はどうするんだ?」と嘲けながら言い放ち、この法律はおじゃんとなった。

 もっともティベリウスのような人は例外的存在であり、人間のうち大部分の者はこの手の阿諛追従に弱いわけであって、ティベリウスのあとの皇帝、カリグラ、クラウディウス、ネロは、みなさん元老院の追従を受けて、喜んで月の名前を自分の名にした。9月はGermanicus 、3月はClaudius 、4月はNeroneusてな具合である。
 しかしカリグラにしろネロにしろ、神格化するにはレベルの低い人物であり、かえって暴君とか性豪とかの不名誉な別名のほうが後世に残ったわけで、彼らを神格化するのはおかしいと生前から思われていた。ゆえに、彼らが死去するとただちにその月の名前は元に戻された。
 彼らのあとも、自分の名前を月につける皇帝が散発的に現れはしたが、同様に死去とともに元に戻ることになる。

 ローマ皇帝は歴代100人以上存在したけれど、今現在まで月にその名前を残せたのは、アウグストゥスただ一人だけであった。
 結局歴史は、ローマ皇帝のうち神と讃えられる価値のある人物は、アウグストゥスしか認めなかったのである。
 そしてそれは2000年が過ぎた今は、たしかに正しいといえる。歴史というものは残酷なまでに正確な評価を行うものなのである。

|

« 読書:白夜を旅する人々 (著)三浦哲郎 | Main | 最低のサイクリング(延岡~宇目) »

歴史」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 8月31日 (暦の話):

« 読書:白夜を旅する人々 (著)三浦哲郎 | Main | 最低のサイクリング(延岡~宇目) »