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August 14, 2010

スパイは踊る教壇の上

 前エントリーの題「スパイは踊る国会の中」は、「スパイは踊る教壇の上」という言葉のもじりなのであるが、その大元の言葉を知っている者などほとんどいないであろうから、その言葉をweb上に残すためにも、解説を加えることにする。

 私の父は旧制福岡中学(現福岡高校)の卒業生である。父の中学時代は、もろに大東亜戦争のさなかだったわけで、学生時代はろくに授業もなく、本業は学徒勤労動員とばかりに、蓆田飛行場(現福岡空港)の建設工事にもっぱら従事する、という学生時代を送っていた。
 父は酔っぱらうと、「今の福岡空港はおれたちが造ったんだぞう」とか、「大戦末期には、『震電』が空港にやってきた。B-29を撃墜できるすごい飛行機を、おれはナマで見たんだ」とか自慢していた。空港造設はべつだんうらやましくもないが、あの伝説の前尾翼戦闘機『震電』をナマで見られたのはうらやましい。もしかして震電が飛んだ姿も見たのでは、と尋ねたがそれについては言葉を濁していたので、震電が飛んだ姿は見ていないようだ。
 父の世代は、まさに激動の時代を生き抜いてきたわけで、聞けばもっといろいろと面白い話を得られたはずだが、なんとはなしに機会がなく、今にいたる。

 それでもいくつかは印象に残る福岡中学時代の思い出を私に語っていたわけであり、そのなかの一つが「スパイは踊る教壇の上」。

 学徒勤労動員ばかりに時間がさかれていた父の学生時代であるが、それでも授業はある。そのなかで授業科目で差別をくらっていたのが英語の授業。対米戦争を行っていた時代、英語は敵性言語として、教えるべきものでないと授業科目から外すなり減らすように当局から要請されていた。
 …愚かとしかいいようのない行為ではあった。敵を倒すには、敵を学ぶのが大事であり、ならば敵の言語を学ぶのはまず第一に優先される行為である。じっさいに大戦の際にアメリカは各大学に日本語学科をつくり、日本語の専門家を大量に養成している。この時点で日本の敗北は決まったようなものだ。

 当局の方針がそうならば、学生も学ぶ意欲も失ってしまう。
 それに憤慨したのが福岡中学の一英語教師。
 「戦争の相手国の英語を学ばないような国は、戦争にぜったいに負ける」と、生徒に対して教壇上から強調しながら、英語を学ぶことの大切さを教え、そして英語の授業を行っていた。
 愛国者の集団である生徒たちは、その教師について、あれはアメリカの味方だ、アメリカのスパイだと言い、「スパイは踊る教壇の上」と嘲笑していた。

 父も同様に、その教師をスパイと囃したてていたわけだが、結局予言通りに大日本帝国は負けてしまった。
 そして福岡中学では、「鬼畜米英、神国日本は絶対に負けぬ、一億総特攻」などと熱弁をふるっていた教師たちは、敗戦とともにコロっと態度を変え、日本は神国ではありませんでした、これからは民主主義で行きましょうとか言って前言を翻し、職務を続けていった。
 しかしその英語教師は、自分の教育では日本の誤った道筋を変えることはできなかったと反省し、その責任をとって敗戦後福岡中学を去った。

 スパイどころではない。まさに真の愛国者であり、真の教育者であり、真の男である。父も己のいたらなさを反省していた。

 この話を聞いて、私としては、戦中は言論圧迫の時代というがそれなりに言論の自由ってあったんだなあとか、敵性言語といいながら英語の授業は維持されていたんだなあとか、「暗黒の時代」として伝わるあの時代にも、それなりの自由があったなんだなとかの感想を持ったが、…それとともに、周囲の圧倒的な雰囲気に流されず、強度な知性と確固たる信念を維持していた人間が、確実に存在したという事実に感銘を受けた。

 その英語教師について、ちょいとwebを調べたが、まったく載っていない。
 父の持っていた福岡中学の同窓誌に、当時の思い出が載っていて、生徒の「スパイと罵ってごめんなさい。先生が正しかったのです」てな手記があったのを私は記憶している。
 親元にその小冊子を取りに行くのも面倒なので、より詳しいことは今は書けないが、いつかはまた詳細な、その真の愛国者の話を書いてみたいと思う。


 ……………………………


【話の流れとしては少し違うが、せっかくなので『震電』を紹介】

Shinden

 プロペラを後方に置くことにより推進力が増し、また機首に大型機関銃を搭載することが可能になる。構想ではB-29に容易に追いつくことができ、強力な攻撃を行うことが出来るはずであったが、実戦配備される前に敗戦を迎えてしまった。

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