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August 29, 2010

読書:白夜を旅する人々 (著)三浦哲郎

 昭和初期、主人公は東北のある寒村の一家の6人兄弟のうち、末っ子として生まれた。彼が生まれたとき、その姿をみて家族の者は安堵の表情を浮かべた。彼の肌の色が普通であったからだ。
 その一家では、肌と髪が真っ白のアルビノの子が、長女と三女の二人生まれていたので、子供が生まれるたびに、肌の色が気になったのである。
 アルビノの子たちは身体が弱く、二人は日の光の入らぬ家の奥でひっそりと暮らしていた。一家の者たちはその二人を愛し慈しみ育てていたのだが、それでも遺伝病であるアルビノの者の存在は、彼らの心に負担をかけ、一族の重荷となり、彼らは普通の家族生活は送れなかった。

 三人の女の子のうち、次女はアルビノでなく、利発活発で、器量のよい、みなの人気者であった。
 その人気者の次女が、ある時家を出てどこかに出かける姿を見て、主人公は突然いつもと違う雰囲気を感じ、ふとその姿がなにかに似ていると思った。そしてその「姿」が見たこともない妖怪「座敷わらし」ということに思い至った。座敷わらしは、見た目は可愛らしい童子姿であり、「家に住んでいるときは家に福をもたらす。でも座敷わらしが出て行ったらその家は不幸になり没落する」という言い伝えを持つ東北の有名な妖怪である。

 次女は家を出たまま帰ってこなかった。彼女は青函連絡船に乗り、津軽海峡に身を投げ入水自殺したのである。
 
 それから一家は崩壊していく。その年に長男は失踪し、次の年にアルビノの長女は自殺する。主人公はそれらの不幸に耐え、矜持をもって東京の大学に進学する。しかし学費の援助をしてくれていた次男も失踪し、主人公は退学せざるをえなくなる。

 6人兄弟のうち、二人が自殺し、二人が失踪してしまった。

 本書で述べられる主人公の人生は、ほぼそのまま著者三浦哲郎氏の実話であり、なんとも凄まじい人生を送ってきた人だと読んでいて慨嘆してしまう。その物語を三浦氏は抑えた筆致で淡々と描いていて、この暗い物語に不思議な明るさと美しさを与えており、かえって筆者のずっと抱えていた悲嘆を全編ににじませている。

 三浦哲郎氏は作家デビュー時から、自分の過酷な宿命について書いていたわけで、その著作活動の大きな割合を占めるものが、宿命の一族への、何故そうなってしまったかの、問いや、憤り、嘆き、そして鎮魂であったことはまちがいない。
 宿命というものがあるとして、いや、あると信じざるをえない立場におかれたものが、その宿命と真摯に向いあってきた氏の作家活動も、また凄まじいものであったろう。

 作者の代表作である「白夜を旅する人々」における「白夜」とは、昼でも夜でもない、あやふやな、死でも生でもない、非現実的な、しかしそれでも実在する現実であり、著者はその白夜を一生をかけて旅してきた。

 平成22年8月29日、三浦哲郎氏死去。享年79歳。
 ただただ、ご冥福を祈るのみ。

 ……………………………
 白夜を旅する人々

 …ブログで紹介した本は、出版社とか出版年を書くのが面倒なんで、アマゾンにURLを貼って済ませるのをルーチンとしているが、この本絶版になっているんだなあ。今まで紹介した本での初めてのケース。これほどの名作が絶版になっているのは、いとかなしきなり。

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