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July 17, 2010

映画:ザ・ウォーカー The Book of Eli

 定期的に作成される映画の一大ジャンル「地球滅亡モノ」の、今年度のひとつ。
 世界的規模の大戦争が行われたのち、世界は数少ない人類のみが生き残った荒れ地となっている。法律も秩序もない世界で、人々は頼るものもなしに、その日の糧を得るのに精一杯の生活を送っていた。
 その荒涼たる世界のなか、30年間ものあいだ「本」を、西にあるという約束の地に運ぶために旅を続ける男の物語。

 この「本」は、表題で堂々と「The Book」と大文字で書かれていることから明らかなように聖書(Bible)である。大戦後の世界では聖書は主人公イーライが持っている本一冊のみが残っていた。なぜかと言えば、この大戦が宗教戦争であり、戦争の原因となった宗教書は忌むべきものとして殆どが焼かれてしまったからだ。主人公の本のみが残ったのには理由があり、その理由を最後のほうで町のボスが知って愕然とするシーンがある。

 イーライは人々が獣に戻ったような無法の世界で、肉体的にも精神的にも強く、ほとんど無敵で旅を続ける。そしてイーライは強靭な信念をもって、西へ西へと旅を続けて行く。
 彼はなぜかくも強いのか?
 イーライの語りによれば、彼が目が見えなくなっていたとき、この本が「自分を西に連れて行け。それがお前の使命だ。その旅を続けているとき、お前には本の加護がある」と語り、それを聞いた後イーライは目が見えるようになった。そのようなことが起これば、イーライもその言葉を信じないわけにはいけない。彼は一介のスーパーマーケットの店員から、強固な求道者に生まれ変わり、旅を続けたというわけである。

 …いかにもウソっぽくインチキくさい話なのではあるが、私たちは歴史のなかで、同様の経験をしたパウロという実在の人物を知っている。
 キリスト教の迫害者側の人間であったパウロは、主の怒りにより盲目となってしまったが、彼を哀れんだキリスト教徒の祈りによって目が見えるようになる。パウロは回心してキリスト教徒になった。彼は宗祖イエスとは会ったことも言葉も聞いたこともないわけだが、自分なりにイエスの言葉を解釈し、その言葉を広めることに人生をかける。パウロは、殉教をも厭わない、決死で情熱的な布教活動を行い、キリスト教をローマ帝国中に広めることに成功する。(でも、最後は皇帝ネロにより殺される) 
 イエスという創始者の死によって、イスラエルの一地方宗教として消滅するはずであったキリスト教は、パウロの尽力によって世界規模の宗教に発展することになった。
 キリスト教というものは、私ら部外者からすると、新約聖書に載っているイエスの言葉と、その実践部隊であるキリスト教会が実際にやっていることに、ずいぶんと齟齬があるように感じるが、その原因はキリスト教最大の布教者パウロにあるというのが定説になっている。(少なくともニーチェはそう言っている)

 それはそうとして、あれほどの興隆を果たしたキリスト教が、時を経て滅びる寸前の世になり、主はまたもパウロのように、宗教存続のための道具を選び、そしてイーライは選ばれた。宗教は、まずは言葉である。言葉を記した聖書を守り受け継ぐために、イーライは超人的な力を与えられ、そしてその使命を己の命をかけて全うする。
 …未来版、パウロの物語なんだろうなあ。

 イーライが持っている聖書に、劇中ただ一人興味を示す男がいる。
 ゲイリー・オールドマン演じるところの荒野の町の支配者である。彼は無法の地に秩序を求め、そしてそれをなんとか達成し、人々の集うコロニーを維持している。彼はさらにしっかりとした秩序を求め、それには「聖書」に書かれた知恵が必要と思っている。
 それは「聖書」の使い方として、まったくまともな使い方であり、イーライが到着した「西の地」がそこでもよかったはずだが、イーライは彼に聖書を渡すことはせず、さらに西に向かった。
 聖書を持ったイーライが西に向かった地で、結局何を見つけたのか? 一応、物語は、その結末まできちんとみせている。

 さて、私が思うに、宗教が必要な人は不幸な人であり、宗教が必要な社会は不幸な社会である。
 宗教の害を知り、宗教を捨て去ろうとした人たちが、その試行錯誤のすえに不幸な世になり、結局は宗教で世を安定させねばどうにもならなくなる。
 この映画はその悲劇を描いた、なかなかの佳作だと思う。

……………以下ネタバレ……………………………


 


 

 イーライが目指した約束の地とは、印刷機が唯一残っている場所であり、そこに聖書を届けることにより、聖書は製本され、複製され、またも世界中に広まることになった。「聖書の意思」はイーライにともかく印刷できる場所まで連れて行け、そして自分を増やせ、そのあとのお前のことは知らん、てなものなのであった。
 そしてイーライが口述筆記で残した聖書全文の印刷本の横に、「コーラン」が置かれていた。イスラム教にも同様の旅を続けてきた超人がいるのか、とそのサイドストーリーを想像して、面白く思った。

ザ・ウォーカー 公式サイト

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