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April 18, 2010

映画:第9地区 (ネタバレあり)

 南アフリカ共和国の都市ヨハネスブルクの上空に、途方もなく巨大な円盤が突如出現する。映画「インディペンデンス・デイ」ではその巨大円盤が攻撃を仕掛けてくるわけだが、この映画の円盤はまったく何もせずにただ浮いているだけである。友好なのか敵対なのか、何の目的で浮いているのか分からないことにしびれを切らした人類は円盤に乗り込み穴をあけて中に入ってみる。するとそこにいたのは劣悪な環境で弱り切っている宇宙人の群れであった。その宇宙人は知能は低く、この宇宙船を飛ばしたほどの超科学の持ち主とはとても思えない。対処に困った人類は、エビ星人を第9地区というゲットーに隔離し、とりあえず一種の自治国として生活させている。しかしエビ星人は繁殖力が旺盛で数は増えるいっぽうであり、また地元の住人との軋轢がいろいろ生じてきたため、エビ星人を都市からもっと離れたところに強制移住させることになった。エビ星人も一応は知能はあるので、住みなじんだ所から移されるのには抵抗する。それをなんとか移住させようと、国連みたいな機関が軍隊と手を組んで強制的に移住計画を進めていく。その機関の一職員ヴィカスを主人公にした、なんとも悲惨な、しかしコミカルな物語。

 SFでは今まで数多くのファーストコンタクトものがつくられた。
 コンタクトの相手は、恒星間航空が出来るくらいの超文明の持ち主であるから、やってくる宇宙人が友好的な存在であれ残酷な敵役であれ、高度な知性体であることは、一応の大前提となっていた。しかしこの映画ではやってきた宇宙人はまったく知性の高い存在ではなく、その点で新鮮であった。
 それで、いったい何故その程度の宇宙人が、超高度な文明の産物である宇宙船の持ち主であり、運転者であったかというのが大きな謎となり、映画を観ながらその謎について観客は考えざるをえない。

 移住計画を進めていく組織の一員ヴィカスが特殊な液を浴びたことからエビ星人に変容していき、話が急激に進行していく。このエピソードから、「エビ星人はじつは食用の家畜であり、宇宙船の持ち主は他惑星の住民に液体を振りかけてエビ星人に変化させて、家畜を集めて食糧用に乗せていた。しかしなんかの事故で自分たちがその液体を浴びてしまい、全部がエビ星人化してしまい円盤を運転できなくなった」というふうな話なのかなあとは私は思った。しかしエビ星人は、エビ星人でないと円盤に積んでいた高度な武器を扱えないことがすでに作中で示されており、エビ星人が宇宙船の本来の持ち主であることは間違いなく、そういうわけでもないようだ。

 結局はエビ星人は、「頭となって働く者」「手足となって働く者」の階層がはっきりと分けられており、宇宙船で生き残っていたのがほとんど「手足となって働く者」ばかりであり、それで知性が低かった、というのが正解であったようだ。他の映画で例えればアリ星人との戦いを描いた「スターシップ・トゥルーパーズ」で、頭脳アリ抜きで兵隊アリだけが宇宙船に乗りこんで地球にやってきたようなものか。(それじゃ宇宙船飛ばんけど)

  しかし労働階級のみと思えたエビ星人のなかに、じつはただ一人知識階級が生き残っており、そのエビ星人クリストファーは、望郷の思いから20年以上もかけて燃料を集め宇宙船を再起動させるべき努力を行っていた。けれどその燃料は、主人公のヴィカスの邪魔により奪われ、帰還の望みを失ってしまう。
 息子のエビ星人に「ぼくらは二つの衛星を持つ故郷の星にいつ帰れるの?」と聞かれ、「燃料が失われてしまいもう無理になってしまった。私たちは次のゲットーに行くしかないんだ」と答えるクリストファーの嘆きのシーンは劇中最大の胸をうつところ。

 強制移住担当官ヴィカスは、やがてクリストファーが高い知性を持つエビということを知り、それから交渉を行う。本来ならここから異星間の知的生物の出会いという真のファーストコンタクト劇が始まるはずだが、ヴィカスは己がエビ星人に変化しつつあるという恐怖から錯乱状態に陥っており、(まあ、味方から人体実験されたり、バラバラに解剖されようとされればそうなるのは仕方ないけど)、高度知性体どうしの情報交換などせず、ただ自分が人間に戻る方法を懸命に要求するのみ。

 その後、燃料奪取、司令船浮上、パワードスーツ活躍などの活劇があり、物語はスピードを増す。
 この過程で、クリストファーはヴィカスが他の人間に危害を加えることを非難し、思いやりがあり、ヴィカスに裏切られても彼を守り、…結局この映画のなかで、最もまともで知的で情が篤く気高い存在が、奇矯な形態をしたエビ星人クリストファーであることが分かる。
 ヴィカスもクリストファーとの付き合いのなかで、だんだんと成長していくのが、人類にとっては救いなのではあるが。

 物語は20年以上動いていなかった巨大宇宙船が動きだして宇宙に去り、そしてヴィカスの最後の姿を映して幕となる。
 ヴィカスが造花をつくるシーン、「エビになっても妻のことは忘れませんでした」との、まるで「アルジャーノンに花束を」を思い起こさせる、なかなか感動的な場面であり、観客がほろっとしたところでエンドロールに入る。


 「第9地区」、だらだらとあらすじを書いたけど、なんだかよく分からん映画であった。だが、この映画には、妙に後味を悪くさせるような仕掛けがいくつもほどこしており、それが心にひっかっかって、なにか忘れがたく、ただものでない映画という印象を受けてしまう。
 再度映画館で観る気もしないが、DVDが出たら、いろいろ気になったところを再チェックしてみようかな。

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 第9地区 公式サイト


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