登山:指山三俣山ルートは登ってはいけない
九州北部は毎年3月に一度は寒波が来るので、それを期待して最初の週末に九重に登ろうとしたが、残念ながら寒波は3日ほど遅れて到来するようで、本日の天候は曇り。そして標高の高いところは霧が満ちているというあいにくの天気。
午後は少しは天候も回復するとのことで、阿蘇の「蕎麦や漱石」でゆったりと蕎麦を食って腹ごしらえしたのち、午後に長者原へと着く。霧は山全体にかかっており、少しでも霧の少なそうな標高の低い山でも登ってみようと思い、指山をめざす。指山は標高1449m、三俣山の尾根筋のコブみたいな山である。
標高低き指山といえど、この高さに来れば霧は濃くなり、眺めはまったくよくない。
参考までに晴れているときの指山山頂の写真。
ここも晴れていれば、背後の三俣山が眼前に見えて、なかなか景色のよろしい所なのであるが、天気ばかりはどうにもならない。
さて、指山山頂には登ったものの、登山口から30分程度の登山であり、どうにも物足りない。たいして汗もかいていないし、体力も使っていないので、これでは宿に着いたときの温泉の有難みをあじわうことができない。それはつまらぬ。というわけで、天気が悪いけれども、三俣山にまで足を伸ばして、もう少し充実した登山をしたくなった。
ここで指山三俣山ルートについて簡単に説明する。
このルートは初級者向けの登山路の多い九重のなかで、ロープを用いらねば踏破できない唯一のヴァリエーションルートとして知られていた。しかし登山愛好家たちによって7年ほど前に登山道の整備が行われ、一番の難所に金属製のハシゴがかけられたことから、誰でも行ける一般道となった。
ところが平成17年夏の豪雨災害によって、三俣山の斜面が大規模に崩れ、せっかくのハシゴも流されてしまい、登山道が崩壊してしまった。それでまたこのルートは人の来ること稀な道に戻ったのであるが、その崩れ方がただものではないという話を聞いた私はその年にロープを持って、崩壊現場を訪れたことがある。私は物見高い男なのである。
そのときの記録を紹介。
三俣山の尾根をずっと登って行って、岩の崖にぶち当たったところが、最大の難所である。
三俣山に登るためにはこのオーバハング気味の岩を乗り越える必要がある。
ここには登りの補助のためか、トラロープがかかっている。教科書的にはトラロープ(工事現場とかでよく使われているヒモ)は野外では劣化しやすく、強度が落ちていることが多いので、これに頼ったりしてはいけない。
岩自体はしっかりしており、ホールド、スタンスはあるので岩の経験がある人は通過はたぶん問題ない。しかし下り方向はローブは必須であろう。
岩を越えると、その先は見事に崩壊していた。足場も大変悪く、いいかげんな歩き方をするとすぐに足元が崩れてしまう。この崩壊した傾斜を登りつめて、灌木群にあたり、そこを藪漕ぎをしたのちに元々あった登山道に合流、それからはとくに問題なく三俣山北峰に到着した。
いちおう私がいいかげんな装備で悪路を登ったわけではないという証拠。これだけの登攀具を持ってきたのである。結局は使わずに済んだわけだが。
さて、その「きちんとした装備をした者しか訪れない」指山三俣山ルートが、近頃また整備されて、岩を巻くルートが開発されたという話を私は仕入れていた。こんな霧の中、あの岩を越える気はしないが、新たな一般道ができたのならそれを使えば三俣山に行くことができる。
今回は偵察がてらその新道を使って登ってみることにした。
視界の利かない霧のなか、尾根を登りつめて難所の岩場に到着。トラロープは5年たってもまだかかっていた。岩は湿っていて滑りやすく、岩を越える場所には近づくことさえ困難なので、予定通りに巻き道へ行ってみる。
岩場を巻くように新ルートがつくられているのだが、いきなり崩れた崖のトラバースから始まる。足場が悪く、かなり危険な道だ。ここを慎重に渡ると林のなかに入り、しばし進むと岩場に拒まれ、そこで折り返しながら登るように目印が付けられている。ただそのルートで行くと崩落地に到達することになるので話がおかしい。直登ルートが正しいはずなので、木につかまりながら直登していったが、やがて藪に拒まれる。藪を突破するとたぶん正規の登山道に合流すると思ったが、濡れた藪を越えるのもイヤだったので、元のところに戻って目印に従って、半分崩壊している崖を横切ると、…やはり出たのは崩壊地であった。
結局、新ルートは、岩をよけて崩壊地に合流するわけで、元の登山道に行くには、図で黄色矢印で示した道を通ることになる。ここは浮石の多いガレ場であり、足を踏み外すと一挙に下まで滑りおちる危険性がある。そして滑り落ちる先は、赤矢印で示すところであり、そこは先に示したトラロープのかかっている崖なので、そこを落ちるとまず命はない。まじめな話、命のかかったトラバースルートである。
崩壊地越えの道を過ぎると、一般道に合流し、そこからは問題なく三俣山北峰へとたどり着ける。
ここから元来た悪路を戻る気はしないので、違う道で下りることにする。
北峰山頂からは舞鶴新道の入り口がすぐそこにあるのだが、舞鶴新道もとんでもないことになっているという話があり、とても下りに使う自信は持てず、遠回りにはなるが、おとなしく雨ヶ池経由でおりることにした。
訪れるたびに崩壊が進んでいるとしか思えない三俣山の登山道を下っていき、やがて平坦な湿地帯に出ると、雨ヶ池はもうすぐだ。歩くことしばらくすると、「あと20mで登山道」てな標識が現れる。私のいま歩いている道は、なんなんだ、ケモノ道ですかい、なんて突っ込みを入れたくなるけど、たしかにあと20m歩けば、ずっと歩きやすい道になり、そこからはただ登山口を目指すのみ。
さて、新しい指山三俣山ルート。
ネットで「指山 三俣山」と検索すると、このルートの情報はけっこう多く載っているのであるが、どのレポートもとてもお勧めできないと書いてある。
私も同感、どころか「登ってはいけない」と思う。
以前の岩越えのヴァリエーションルートしかない時期は、一般の人はたとえあそこにたどり着いたとしても、岩越えの所で引き返していたと思う。しかし、岩を越えなくてよい巻き道があると、ついつい進んでしまう人もいるのではないだろうか。そして新ルートは、道の危険度としては、崩壊が進んだぶん、以前より増しており、さらに生命の危険のある道となっている。
槍穂や後立山には、もっと危険な一般登山道があるという説もあろうが、ああいう山域は中級者以上が登るところであり、九重はそれと違う。
新ルートをレポートしている人たちは、だいたいベテランであり、きちんとした装備をもって登っているので、危険度は非常に低いのではあろうが、なにしろ九重山域は初級者が多く登る山である。その初級者のグループがトラロープの岩まで来てしまったとき、こっちに道があるとばかり、新ルートに入り込んでしまうと、立ち往生してしまい遭難騒ぎを起こしてしまう可能性が高いように思える。
あの新ルートは、今の整備具合では、入り口にロープでも張って、侵入禁止にしたほうがよいと思う。
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