« 映画:アバター | Main | 宮崎市、忘年会、光洋の土産 »

December 27, 2009

映画:The 4th kind フォース カインド

 小説でのミステリ部門では、「ノックスの十戒」という作者の守るべき掟のようなものがあり、その十戒の中の一つに「中国人を登場させてはいけない」というのがある。今となっては、?というべきものなのであるが、「ノックスの十戒」が書かれた1920年代には、「中国人というのは怪しい魔法のようなものを使う人種である」てな共通的な一般認識があり、そんなものを作中に登場させてはミステリは何でもありの世界になってしまうので、中国人登場禁止となっていたわけだ。

 フォース カインドは、基本的にはミステリものである。

 簡単なあらすじを述べる。
 アラスカのノーマという小都市では、不眠症に悩む人が増えていた。彼らを治療していた心理学者タイラー博士は催眠療法で不眠の原因を探るが、複数の患者が「白いフクロウが自分を見ているので眠れない」と同じことを言うのを不思議に思っていた。そして「フクロウが見えなくなった」と言った患者が怪死を遂げ、その後に「フクロウが見えなくなった」という患者が現れたので不安を感じ、その患者に催眠療法を行いフクロウが見えなくなった時の記憶の再生を試みる。眠りに入りその時の記憶を述べようとした患者は突然絶叫し、物理法則に反してベッドから浮き上がり、身体がねじれて脊椎が折れてしまう。
 それは傷害事件なので、警察が現れ「お前はいったい何をしているんだ」と博士を詰問するが、博士も答えようがない。
 謎の探求を進める博士が自分の口述テープの文字起こしを助手に頼む。その作業を行っている助手が、博士にテープを持ってきて、青ざめた表情で自分はこれを理解できないと言う。テープを再生すると、そこに博士が自分が言ったことの覚えのない言葉と、それに答える人間とは思えない者の奇怪な言語が録音されていた。

 …という具合の、けっこう魅力的な謎が満ちている物語である。
 この謎への謎解きに、「怪しい中国人が超能力を使ってそんな不思議なことを行っていた」という解答はしてはいけないというのが「ノックスの十戒」だ。しかし中国人は掟で使ってはいけないが、「宇宙人」はノックスの十戒に載っていないこともあり、「宇宙人犯人説」はミステリでも使用可能である。(よくは知らんが)
 そしてこの映画は、題名からしてはっきりと宇宙人モノなのであり、解答に「宇宙人がしたから」となるのは、非常に高い確率であり得ることとなる。そして残念ながら、解答はそうだ。


 不可解で非現実的で、それがゆえに魅力的な謎を、「宇宙人がしたから」との解答を用いて解決し、観客を呆然唖然とさせた映画として、我々は既に「フォーゴットン」という怪作を持っているが、「フォース カインド」も張り込み刑事に宇宙人(あるいは宇宙船)を見させたことで、一挙に駄作になっている感は否めない。

 もったいないと思う。
 映画のミステリ部のいろいろな伏線は、宇宙人を登場させなくても、例えば島田荘司とか綾辻行人とかだったら、きれいに収束する脚本を書けたと思う。(特に島田荘司とか、そういうのを生きがいにミステリ書いているような人だし)
 とりわけ、タイラー博士の夫の死亡の真相を警察が明らかにするところでは、ここで今までの博士の行動の意味が反転するような衝撃があるわけで、そこで博士こそすべての奇怪な事件の中心人物である(と、警察も疑っていたわけだが)との解決に向かっていったほうが、より怖く、衝撃的であったと思う。

 あ、本当に怖く、衝撃的だったのは、ミラ・ジョボヴィッチでないタイラー博士の本物の方の最初の登場シーン。
 あれはまじに怖い。映画で、あんなに怖かったのは、ハリウッド版の「リング」でどこかの家の中にびしょ濡れのサマラちゃんが立っていた一瞬のシーンを観たとき以来だな。
 怖い映画が好きな人は、フォース カインドの、博士へのインタビューシーン観るだけでも、この映画を観る価値あり。

……………………………………………
The 4th kind フォース カインド 公式サイト

|

« 映画:アバター | Main | 宮崎市、忘年会、光洋の土産 »

映画」カテゴリの記事

Comments

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 映画:The 4th kind フォース カインド:

« 映画:アバター | Main | 宮崎市、忘年会、光洋の土産 »