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December 06, 2009

寿司:松鮨@京都市

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 京都で寿司屋といえば誰もがまずはこの店の名をあげる名店、松鮨。
 松鮨は早瀬圭一氏の著作「鮨を極める」のなかで、著者の若いころの思い出の場面に少しばかり登場している。昭和30年代、早瀬氏は同志社大学へ通う大学生であった。氏は学生時代から鮨マニアであり、美味い寿司屋を食べ歩くことを生きがいとしていたが、学校へ通う道の途中にある「松鮨」だけは、訪れる決心がつかないでいた。松鮨は当時から名店の誉れ高く、食通な人の専用の店との評判があり、また鮨の美味さに比例してお金もたいそうかかるということでも知られていた。
 それゆえ一介の学生である早瀬氏は、毎日この店の前を通りながら入ることができなかった。しかし鮨への情熱高き氏は、我慢できなくなり、ある日親から振り込まれた1年分の学費を懐に入れ、いざとなればこれを全部使ってもかまわない、でないと今日のこの日を逃しては一生松鮨の鮨は食えないと決心を固め、ついに松鮨の戸を開けた。
 …この後の顛末については、「鮨を極める」を読んでいただくことにして、それを以前に読んだ私の感想としては、なんだかおっかない店だなあ、というものであった。まだおれは行けるような身でもないなあ、とか思っていたのだが、よく考えればそれは50年前の話、店主も二代目になったこともあり、雰囲気もそうとう変わっているであろう、それに私も40過ぎのいい中年である。私が行ってなにが悪いというわけとも思えず、今回初めて松鮨を訪れることにした。

 松鮨の開店は午後1時半からという妙な時間からであり、その時間に暖簾をくぐって戸を開ける。
 そこで見る店内。作務衣にエプロンがけの店主は、なんとも雅びな雰囲気をまとった人。生粋の京都人ってなにか浮世離れしたものを私は感じるが、松鮨の店主もそういう「京都人」を感じさせる人であった。

【松前鮨の炙り】
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 煮蛸とモロキュウのアテの後は、さっそく鮨が出てくる。
 松前鮨は棒寿司として最初からツケ場にあるのだが、これを店主が切ったのち奥に運ばれる。「寿司は最初は熱いものから出てきます」とのことで、なんのことかいなと思っていたら、炙りで出てきた。昆布を炙るのはどうかとも思ったが、これが食べればなかなか乙な感触。そのなかの鯖鮨も香り豊かで、鯖鮨の新たな魅力が分かりました。

【鮪】
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 鮪や白身は店主が柵から切り出すが、その素材は見るだけで分かる尋常でない質の良さ。
 料理する姿を眺めるだけで、美味い寿司が出てくるのが確信でき、わくわくしながら寿司が出されるのを待つ。
 「お酒に会う鮨をどんどん出しますから」というふうなことを、店主は柔らかな京都弁で話され、そして確かにこれからは「酒の極上のツマミの寿司」のオンパレード。
 鮪は西日本における最高レベルの品質。これが鉄火巻き風に握られ、それを2分にして酒に合いやすいようにして出てきます。

【雲丹】
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 雲丹の軍艦巻き、というわけでしょうけど、こういうふうに軍艦巻きをスパっと切る鮨は初めて見た。見た目に美しく、そして食べても当然美味い。

【海老】
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 海老は、じつは車海老ではないそうだ。車海老の一番美味しいサイズは、寿司ダネにするには大きすぎるので、(「次郎」の車海老がそんな感じだな。あれは寿司というより「シャリ付き茹で車海老」。でもとんでもなく美味い。)、それの近種の海老を使っているとのこと。たしかに甘く旨い、見事な海老。

【車海老巻き】
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 それで寿司の主役の一つである車海老はこちらの巻物に出てくる。
 裏巻きの寿司に、厚い車海老にオボロをかまして。
 なんとも美しく、その見た目とおりの豊かな味の寿司でした。

【鯵巻き】
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 先の海老巻きでわかるように、松鮨は関西の押寿司の流れも取り入れている。
 それはこの鯵の寿司でも同様で、さらにその技法が発揮されている。裏巻き寿司に、紫蘇に、鯵の切り身。食べるのが勿体なくなるほどの美しさ。まあ、すぐ食いますけど。

【コハダ】
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 江戸前の技法も、また松鮨の特徴です。
 上品に〆られたコハダは旨み十分。
 松鮨のシャリは、またこれが独特のもので、江戸前風のきつさは全くなく、ほんのりした甘さと、ねっとりとした柔らかさが特徴。
 これが柔らかめに仕込んだ寿司種とよく調和して、松鮨にしかない寿司を形つくっています。これは松鮨でしか食えない寿司でありましょう。

【ひよこ】
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   ↓  ↓
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 「手間暇かかる寿司なんで、近頃の寿司屋はこれをつくってくれませんなあ」と店主が嘆く寿司「ひよこ」。ツケ台に出されたときは、茹で卵しか見えなかったが、ひっくり返せば卵の白身にオボロとシャリをかませたもの。これ、面白い食感の寿司で、たしかにたいへんな手間がかかるだろうな。

 この他にもいろいろ出てきたが、〆のほうは穴子に穴キュウなどを食べて、腹いっぱいになり終了。

 松鮨の寿司は、ひさしぶりに独創性のある素晴らしい寿司を食ったとの感想をもった。近頃では、鹿児島の「鮨匠のむら」以来である。
 松鮨では、素材が素晴らしいのは当然として、江戸前の技法を基本として、それを関西寿司の技法と融合させて、高い技術で独自の寿司をつくりあげていることに、食べているあいだ、ずっと凄さを感じていた。

 和食の宝庫京都は、和食料理についつい関心が寄りがちだが、京都でしか食べられない寿司が厳としてここに存在している。
 寿司好きの人は、京都に訪れたときは、是非とも経験すべき店だと思う。

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 松鮨 京都市中京区蛸薬師柳馬場西入十文字町432-1
     TEL. 075-221-2946

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