読書:アフガン、たった一人の生還 マーカス・ラトレル著
アフガン戦争の実話。
アフガンで任務を遂行中の海兵隊精鋭選抜の4人のメンバーが、タリバンの反撃を受け、救援部隊もヘリコプターを撃墜され全滅するなか、たった一人が生還した。その生還者の凄絶な闘いと奇跡的な帰還の記録物語である。
物語の前半は、海軍の精鋭SEALSの訓練の場面が続く。映画「フルメタルジャケット」で既に有名なものとなっている米軍精鋭部隊の常軌を逸した訓練。この身も心も徹底期的に叩きつぶすような過酷な訓練を経て、そこから蘇った隊員たちは、卒業するころには鋼の精神と肉体を持つ、最強の戦士に成長する。
彼らはいかなる戦地でも最も有能で最も強い戦士として活躍するのであるが、4人の選抜チームにアフガンで任務が命じられる。タリバンのリーダー、シャーマックの抹殺あるいは捕獲である。
4名は作戦中に地元の羊飼い達に遭遇し、彼らをそのまま逃したことから、タリバン兵へ報告がなされ、タリバンの総攻撃をくらう。
SEALSのメンバーは一騎当千の勇士であり、200名を越すタリバン兵に対しても、退却を行いながら積極的な攻撃を続け、次々にタリバン兵を斃していく。しかしタリバン兵は烏合の衆ではなく、シャーマックの率いる統制のとれた勇敢な兵士たちであり、SEALSメンバーの強烈な反撃にひるむことなく、SEALSをじわじわと追い詰め、一人一人と葬っていく。最後に残った兵士マーカスは懸命の退却劇を行い、いくつもの銃創をかかえながら、なんとか戦地を脱出する。
半死半生の状態で倒れていたマーカスは、戦場近くの村人に見つけられる。村人は村の者たちと協議し、弱い立場の者を守ることは村の掟であるから、この傷だらけのアメリカ人は村全体で守ることを決意する。
この掟(アフガン語で「ロクハイ」と言うそうだ)はタリバンも含めてのアフガン全体のものなので、タリバンが敗残兵がこの村にいることを知り、偵察に来ても村は毅然として引き渡しを拒否し、それをタリバンは承服せざるを得ない。
この物語に登場するタリバンは決して、アメリカ政府が主張するような悪の組織の使いなどではなく、強い信念を持ち、互いの仲間を助けあい、そして戦いの場でも有機的に機能できる、有能でそして勇敢な人たちである。それは主人公も認めている。
主人公が悪の権化,悪の化身のように口を極めて罵るビン・ラディン、オマール師にしても、それは抽象的な存在であり、実際の人物像は、それこそ主人公が現実に遭遇するタリバンのリーダー、シャーマックのように、誇り高い、カリスマ性のある人物であることは間違いなかろう。そうでないと、あれほどの組織はつくりあげられない。
アフガンの住民もまた誇り高く、義侠心に富んだ人たちである。通信手段をなくした主人公をアメリカ軍に戻すため、村から30マイル離れたアメリカ軍の基地へ、荒涼たる山を徒歩で連絡に出る村の老人の姿は、主人公と同様に我々の胸も強く打つ。
アメリカ側では、主人公を含めたSEALSのメンバーは誰も有能で勇敢で、そして愛国心に富んだ、作中言うところのまさに「テキサス魂」を具象する、立派なアメリカ人である。このような人たちから組織されるアメリカ軍が、圧倒的に強い、世界最強の軍隊であることは当たり前に思える。
作中登場する人物は、誰しも魅力的であり、悪しき人物、無能な人物はどこにもいない。しかし彼らがそこに登場し活動を行っているアフガン戦争というものは、主人公はその意義を肯定しているもの、作中の描写から読者が判断するかぎり、どこにも出口がない、誰も幸せにならない、何の得にもならない、愚かしい戦争に思えてならない。
たぶん、「タリバンという悪党がアフガニスタンという国を乗っ取って、テロを世界中に輸出している」という、戦争発端でのアメリカ政府の定義が根本的に間違っているのだろう。
誤解されては困るから繰り返して言うが、主人公はアフガン戦争に疑問は持っていないし、世界の敵として全力をかけてタリバンと戦っている。彼の愛国心は純粋で、自分の戦いが母国のため、世界のためと信じている。
しかし読者としては、どうしてもその戦っている敵のタリバンが悪役には思えないのだなあ。だいたい作中のタリバンの反撃にしろ、どう考えても祖国に侵入してきた敵軍に対しての防衛の戦争だし。
私はテロは憎んでいるし、情報として伝わるタリバンの麻薬販売、少年兵強制徴兵とかからは、タリバンはとんでもない集団とか思っているけど、本書を読んで、いろいろと考えさせられること多かった。
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アフガン、たった一人の生還 マーカス・ラトレル著
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Comments
同じ本を読んだので、参りました。
1つだけ指摘させていただければ、海兵隊ではなく海兵だと思います。Navy SEALSは海軍属です。
Posted by: 通りすがり | November 02, 2012 02:02 AM
ご指摘ありがとうございます。
本文訂正しておきました。
Posted by: 湯平 | March 12, 2014 08:10 PM