素数とは1とそれ自身の数でしか割り切れない数のことで、具体的には1,2,3,5,7,11,13…と続いていく。素数は無限にあるのだが、素数の出現には法則性がなく、いかなる数が素数となるかを予測する手法がない。そのため、いまだに素数とは、根性で計算して、それが『1とそれ自身の数でしか割り切れない』ことを証明したのち初めて素数として認定される数となっている。そのように素数に関してはその存在の証明がすごく手間がかかるため、それを利用して現在のインターネットのセキュリティに関しては素数を暗号として用いて、安全性を確保している。
しかし素数の出現に関しては、じつは法則性があると予想したのがリーマン予想であり、これが証明されれば、現在のネット世界は甚大な影響を受けてしまうそうだ。
数学会上の最大級の難問であるリーマン予想が我々の生活に、直接な関わりがあるそうで、最近もっとも注目を浴びている
この「リーマン予想は解決するのか」は、書評によれば「数式をほとんど使わず、言葉によるイメージで数学を解説する」という趣旨で書かれたものだそうだ。大学卒業以来とんと数学に縁のない私のようなものでも、リーマン予想についてそれなりに理解できるよういなるのではと思い、アマゾンで購入した。
読んで驚いた。
なにがなんだかさっぱり分からない。
著者らがリーマン予想の誕生や歴史、すごさについて熱く語っているのだが、その前提の関数の定義がこちらに何の知識もないものだから、日本語で書いていながら、知らない異国語を読んでいるようなもので、著者らが語っているものがいったい何なのかまったく理解できない。
とりあえず、著者らのリーマン予想に対する熱い情熱が分かっただけで、半分以上読了。
半分過ぎたところで、数学をあまり知らない人の初級講座として数式入りの解説章が始まるのだが、…ここからが俄然面白くなる。
(著者らは数学をよく知らない人はそこから読めと巻頭に書いているので、それに従うべきであった)
リーマン予想とは、もともとはオスラーのゼータ関数のゼロ点は一線に並ぶことの予想なのであるが、このゼータ関数が美しい。具体的には、
【ゼータ関数】

これがまずsが2のとき、

というため息が出るほど美しい式に収斂する。
ちなみにここでなんでπが出てくるんだいと誰もが思う(私も思った)疑問は、著者は以下の三角関数における無限次の多項式の因数分解の方法を紹介し、鮮やかに解決している。

そしてゼータ関数は、素数に関しても数式が成り立ち、オイラー積として表現される。
【オイラー積 :pは素数】

ゼータ関数の1,2,3,4,5…と整数が規則正しく続いていく式が、あの無秩序に並んでいるような素数ときちんと対応して、その総和が等記号で結ばれること自体が、素数の秩序性を示しているような気が、数学の素人としてはしてしまうのだが、この式からリーマン予想までの道程がまた面白い。
人類は数学を思考するためにまず数字というものを発明した。次いで、0、小数、虚数というものが発見され、その大発見ごとに数学は飛躍的に発展した。とくに虚数の発見は重要であり、これにより今まで一次元上に表していた数というものが、二次元的に平面上に存在するまでに範囲が広がった。数学の研究はさらに進み、今では数は特性を持つ集合体として理解されるようになり、立体的な次元に存在するまでにその定義を広げている。これが「イデアル理論」というもので、現代の数学の主流の考えとなっている。
リーマン予想は、オイラー積をこのレベルまで数を定義し直さないと、全体像が見えてこないそうで、そうなるともはやリーマン予想の理解というものは、とりかかりのところでさえ私のごとき素人には手も足も出ない領域に入っている。本書では123頁から「イデアル理論」のアイデアについて、丁寧に解説しているが、なにしろ数の概念が変わってしまうわけで、私には何度読んでも理解できなかった。
それでも全体としてこの書はexcitingでfantasticなものであった。
なによりも出てくる数式が美しい。それらは簡素にして完璧である。おそらくは真理というものは、すべてそういう形で現れるからであろうし、また数学というものは何よりも真理を明らかにする学問であるから。
クレイ数学研究所が数学の7つの難題についてそれぞれ100万ドルの賞金を出しており、その難題を解けたものには賞金が贈られることになっている。リーマン予想の証明はその7つの難題のうちの一つであり、著者らに言わせれば「リーマン予想の完全な証明は、タイムマシンの完成くらいの超難度である」とのことだ。
それくらいの超絶的難問が並ぶクレイ社の懸賞問題であるが、なんとそのうちの一つ「ポアンカレ予想」がロシアの数学者によって証明されたとのこと。これがまた小説的にも面白い話のようで、さっそくそれを書いた「完全なる証明」をアマゾンに注文した。
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リーマン予想は解決するのか