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November 21, 2009

映画:イングロリアス・バスターズ (ネタバレあり)

 タランタィーノの新作。相変わらずの快作というか怪作というか。ま、どっちにせよ面白かった。

 物語はナチス親衛隊の将校ランダ大佐を主軸に進む。
 ランダ大佐は有能な人であり、その有能さを買われ、ドイツ占領下のフランスでのユダヤ人狩りの任務を任せられる。彼は他の親衛隊員がみつけることができなかったようなところでも、その捜査能力を発揮して、フランス人に匿い保護されていたユダヤ人を次々に発見し、殺すなり、強制収容所に送っていったりしている。
 ランダ大佐はその功績により評価を高めていくのであるが、彼は有能ゆえ世の中がよく見える人なので、じつは自分がたいへん困った位置にいるのを知っていた。
 ナチス・ドイツは今のところ威勢はいいものの、どうせそのうち戦争に負けるに決まっている。そうなると国家に命ぜられて仕事をしていたにすぎない自分は、連合軍に捕えられたのち、戦争犯罪人として厳しく処罰されるだろう。それはイヤだ。しかしだからといって今逃げてはこれも死刑だ。
 この八方ふさがりの困難な状況に苦しんでいたランダ大佐であるが、その彼に事態を打開する千載一遇のチャンスが訪れる。

 そのチャンスを運んできたのが、ブラッド・ピット演じるところのレイン中尉。
 ナチスの残虐性には、残虐性で対抗するに限ると、米軍上層部より対ナチテロ組織のリーダーに抜擢されたイカれた人物。思想・哲学等は関係なく、ともかく人間をいたぶり抜きたいという意志が行動の原則である異常人である。彼のもとに、同族を虐殺されたことに憤慨するユダヤ系アメリカ人を主とするチームが結成され、このチーム「イングロリアス・バスターズ」が、フランスでナチスの兵隊を相手に残虐のかぎりを尽くす。死人の頭の皮を剥ぐわ、無抵抗の捕虜の将校の頭をバットでたたき割るわ、戦時国際法無視の暴れっぷりだ。
 そのバスターズに重要な情報が入る。パリの映画館で戦意高揚の映画が初演されるため、そこのプレミアム上映会に、総統以下ナチスの高官が勢ぞろいすると。ドイツのレジスタンスおよび英国の諜報員の力を借りれば、その映画館で仕事ができ、ナチス首脳部を一挙にこの世から消し去ることができる。
 さっそくその壮大な暗殺計画が練られ、実行準備へと入った。

 結局のところ、バスターズのメンバーも、レジスタンスも、英国諜報員もみんな馬鹿だったので、計画は穴だらけのものになり、映画館では警護に訪れたランダ大佐により彼らの正体はあっさりバレるのであるが、ランダ大佐はなぜか彼らをからかうに止め、暗殺計画はそのまま進行していく。ちなみにこのランダ大佐(=イタリア語ペラペラ)がイタリア人に化けたバスターズのメンバーにイタリア語のレッスンをする場面は映画最高の笑わせどころであろう。

 ランダ大佐がなぜ暗殺計画を阻止させなかったといえば、自分がその功を横取りすれば、戦争を終結させたという功績を得ることができると判断したためで、そのすごい功績があれば、ユダヤ人迫害の罪は問われずに連合国側に亡命することができる。ランダ大佐はその好機を逃さない。
 暗殺実行部隊の監督役のレイン中尉をとらえたのち、ニタニタ笑いながら米国上層部への直接の連絡を要求し、それから暗殺計画の遂行と引き換えに、次々に過剰なほどの身分の保障の要求をするランダ大佐、この部分もブラックユーモアたっぷりの名場面であった。

 ランダ大佐とバスターズの話に、もう一つユダヤ人女性の復讐物語がからむ。
 ランダ大佐の摘発のときに、家族が惨殺されたなか、若い女性が一人だけ逃げることに成功した。彼女はパリで名前を変え、仕事と恋人を得ることができ幸せに暮らしていたのだが、ひょんなことからナチスの高官たちが自分の経営する映画館に集まるということになり、突如復讐心が燃え上がり、バスターズとは無関係のもう一つの暗殺計画を立てる。
 イカれた人物ばかりが登場する本作で、彼女は唯一まともな人であり、その残虐な行為もそれは正当性があるものである。

 この映画は、ユダヤ人狩りとテロ行為が横行するナチス占領下フランスという、極限の暴力と不条理がうずまく地で、正義も理想も倫理も関係なく、自分がやりたいことをただやりたいイカれた連中たちが、頭脳と腕力でバトルしあうという、タランティーノ流格闘劇である。
 そのなか、ただ一人まともなユダヤ人女性が、己の復讐心に我が心と我が身を焼きつくしていく哀しいサイドストーリーは、ついつい格闘劇のほうにばかり気を取られ、そのバカ部分に笑い転げている観劇者の心を、ふっとまともな方向に引き起こすはたらきがあり、映画全体としてよくバランスがとれていたと思う。

 タランティーノの映画は、映像と脚本の徹底して手のこんだ馬鹿らしさが売りなんだろうけど、今回はそのへんが新機軸だったな。

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イングロリアス バスターズ 公式サイト

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