映画:2012(2) 巨大建造物の魅力 ※ネタバレあり
映画2012の後半は、主人公一家の脱出劇となり、地球滅亡の壮大な物語から、単なる家庭喜劇に変換するわけで、退屈といえば退屈だ。なにしろ主人公一家は不死身なので、あらゆる危機はただの盛り上げの道具にしかなっていない。
その退屈な後半で、物語が急に面白味を増すのは、中国製巨大箱船の登場からである。
不詳私は、地球が壊滅することが判明したのち、G8の国々が極秘裏に総力をかけて造りあげる、選ばれた人類の救済装置は、てっきり「巨大宇宙船」だと思っていた。
そのため、チベットの山奥で製造された巨大な建造物が、ドックの中で並んでいる姿、わざわざ劇中人物が、「碇がある」と騒いでこれは船以外の何物でもないということをしめしているところをみても、「碇がある宇宙船とは、宇宙戦艦ヤマトなみだなあ」としか思っていなかった。そして、この全長4キロに及び巨大宇宙船が、たぶん巨大カタパルトを用いて宇宙に飛び出す姿を、わくわくしながら期待して観ていたのだが、…それはまじに箱船であって、地表が崩壊したのちの海に乗り出す巨大な船にすぎなかった。
海が安全と分かっていたのなら、そんな巨大な箱船作らずとも、現在あるタンカー船とかフェリーとかを強度高く改造すれば、たくさんの人類救えたんじゃねえの、とかの突っ込みはたぶん誰でも入れるし、じっさい山ほどあったであろう。ここは映画の脚本の弱点に思える。
しかし、私はあえて、あの巨大な箱船を登場させたエメリッヒ監督を支持する。
なぜなら、エメリッヒ監督の映画は、彼が滅亡オタクであるとともに、巨大建造物オタクであることにより、その魅力を高めているからだ。
巨大建造物が、人に強い印象を与えるのは、巨大建造物はその存在だけで、圧倒的な力の誇示を表現できるからだ。それにより人はその建造物に、いかなる感情であれ、強い印象を持たざるを得ない。
エメリッヒ監督は、冷酷残虐な宇宙人侵略の物語ID4で、「こいつらには絶対勝てない」と人類に感じさせるために、各国首都の上空に超絶的に巨大な宇宙船を登場させている。建造物かどうかは少々疑問として、これも人類の危機の物語「デイ・アフター・トゥモロー」でも、人々に最も絶望感を与えたのは、あの途方もなく巨大な竜巻であった。
2012の後半部、チベットの山奥の極秘に作られたドックで、途方もなく巨大な箱舟が出現するシーン。そして、これが津波に打ち勝ち、海に出港し、曳航を行っているシーン。
このシーンで観客は、災厄続きの物語の筋のなかで、ようやく安心感、安堵感を得ることができるのだが、それはなによりも、この箱船が「巨大である」ということに依っている。
巨大であることは、それだけで、なによりも人に確かな存在感を強い説得力をもって示しているからだ。
巨大建造物の存在感と、それによる人々の感銘、安堵感の見事な表現。
巨大建造物オタクのエメリッヒ監督の面目躍如たるシーンが、箱船の登場からは続き、ここも前半の世界壊滅シーンと同様に見ものである。
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ところで、巨大な船を描き、その巨大な船の圧倒的存在感をもって、旅への憧れ、旅の喜びがひしひしと迫ってくる、秀逸なるポスターがある。
アールデコ時代の巨匠カッサンドルの作品である。この名作を紹介。
画面のほとんどをつかって船を描くという大胆な構図、喫水線の位置を現実離れしたものにして船の高さを誇張する手法、真正面から船を描く単純にして力強いデザイン、これらにより、豪華客船ノルマンディ号の巨大さがポスターから迫力をもって伝わってくる。
この非現実的なまでに巨大な船に乗って、旅に出たいと思いませんか?
そして、そうすれば、いつもの日々と違う、新しいレベル、新しい感覚で、旅に出られるのではないだろうか。
巨大なものへの人々の憧れと畏敬が、遥かなる素敵な旅への誘いとなる。
1930年代に描かれたこのポスターは、今も、人々の心を魅了している。
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