読書:利休にたずねよ 山本兼一著
骨董集めと女遊びにうつつをぬかし、家業が傾くまで蕩尽をつくした、魚屋の道楽息子が、いかにして美の世界を極めつくした巨人に変貌していったか、その謎をミステリ仕立ての形式で描いた小説。
本書は、利休が秀吉から死を命じられ、それが実行される日の描写から始まり、それから一章ごとに時をさかのぼっていくことにより、ベールを一枚ずつはぐようにして、利休の茶の精神の「芯」を明らかにしていく。
まず著者は利休の茶会を描き、そこで茶の本質というものを説明している。茶の本質は、もてなしの精神の発露であり、優れた茶の場とは、すなわち優れたもてなしの場である。利休の茶会はたしかに、もてなしの心に満ち、客はくつろぎ、やすらぎ、愉しむ。…そして利休のつくる茶懐石の料理って、ほんとに美味そうだなあ。
さて、利休のそのもてなしの精神の大元になるものは、ネタバレすれば、利休の若いころの絶望的にまでに狂おしい恋であった。利休には死別してしまった永遠の恋人ともいえる存在があり、利休はずっとその恋人をもてなすことを考え、最良の、最高のもてなしを行いたく、自らを向上させていった。その結果、美学の極致とでもいうべき茶道を完成したというのが、ミステリの解答となる。
…こういうフロイド的解釈は、さすがにさんざんに使われ、すでに手あかにまみれてしまった小説技法ゆえ、説得力はまるでないのだが、著者の文章の力は卓越したものなので、ついついそれで納得してしまう。
茶というものを蘊蓄合戦くらいに思っていた人(←おれだ)などには、茶の世界が、広くて深く、また愉快なものであることを知らせてくれ、目からウロコの体験ができる、そういう良書である。
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利休にたずねよ
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