鮨:つく田@唐津市
福岡で日曜の昼に鮨を食うときは、たいてい薬院の近松を利用している。しかし一月前に近松を訪れており、まだそれほど鮨種も変わっていないだろうから、目先を変え、少し遠いところにあるけど、久しぶりに唐津市の「つく田」に行くことにした。
昼というのに相変わらず、酒を頼んで、肴と握りを楽しむ。
昼の肴は、多くは鮨種の刺身を切ったもの。それに、アコヤ貝と、雲丹の塩辛、ミョウガといったところが加わる。つく田の名物、イワシのオイル漬けは、まだサイズが小さく鮨種にならなかったので、肴として出てきた。
江戸前鮨の華であるコハダが唐津ではめったに上がらないので、それに対抗できるような光りものを店主がいろいろ考えた結果、唐津ではいい鰯がよく上がるので、これをオイル漬けにすることにより、店名物の鮨として定着。肴としても、はなはだ美味。
つく田の酒器は、唐津在住の陶芸家中里隆氏によるもの。
中里氏は江戸前鮨が大好物であったのだが、九州ではそれが食べられないことをかなしく思い、地元の一流の料理人をくどき、伝説の銀座の鮨店「きよ田」に修行に行かせて江戸前鮨を会得させ、「器は全部自分が提供するから、寿司店を開いてくれ」と、まずは地元の唐津市に「つく田」を開店させた。さらに仕事でよく出かける福岡市にも江戸前鮨店が欲しくなり、同様にして「安春計」を開店させた。
なんとも、小説とか漫画のなかにしか存在しないような御仁であるが、そのようなとんでもない食通が世には実在し、そのおかげで私などが、九州で一流の江戸前鮨が愉しめているわけで、ありがたいことである。
鮨は、鯛、甘鯛コブ〆、水イカ、車海老、赤西貝、時知らずのヅケ、〆イワシ、ホタテのヅケ、雲丹の海苔巻き、アナゴなど。
脂のいっぱいのった鮭が、ヅケることによりさらに美味さが増し、力強い鮨となっている。
これは「つく田」ならではの料理。古い江戸前の技法を用いたとのことであるが、ホタテをヅケたものを、叩いて柔らかくして、シャリを包みこむようにして握る。シャリを支えいるホタテの豊かな味の広がりから、ホタテの新たな魅力が分かる。
唐津の鰯はいつでもとても美味しいのだが、今回のは脂がとても乗っており、オイル漬けにするよりは〆たほうがあっているということで、〆もので。口になかに美味さを主張しながら、柔らかくとろけていく食感が素晴らしい。
「つく田」は本格的な江戸前鮨店であるが、江戸前の華である、マグロ、コハダにはさほどこだわっていない。なぜなら唐津には、コハダはめったに上がってこないし、マグロもいい時期が少ないから。しかし玄界灘を真ん前にした唐津は、日本でも最も美味しい魚があがるところなので、その魚を種に鮨を握っていれば、唐津ならではの江戸前鮨を供することができるわけで、そしてその考えは正しく、九州のみならず全国から鮨好きな人の集まる店として、名を響かせる店となっている。
九州北部の鮨屋の店主は、アクが強いというか、個性が強いというか、いかにも「鮨屋の店主」というような人が多いという印象が私にはあるが、「つく田」の店主松尾氏は、それとは違い、優しく穏やかな人柄の方であって、店の雰囲気も和気あいあいとした気持ちのよいもので、そういう心地よい空間を作ることのできる、熟練の寿司職人であると思います。
なお、「つく田」の近くには鮨の名店がもう一軒あります。
こちらは、松尾氏のお兄さんの鮨店です。「つく田」が九州では特殊な鮨を出すことから、県外の客が多いのに対し、こちらの鮨は、素材の新鮮さをうまく用い、鮮魚系でまとめた地元流の鮨であり、地元の人でよく賑わっています。
店の前を通り、「やすけ」の鮨も食いたいなあと思ったけど、さすがに鮨のハシゴは胃袋的に無理があったので、断念。
…………
つく田 佐賀県唐津市中町1879-1 TEL 0955-74-6665
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