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August 03, 2009

読書: 歓喜する円空 梅原猛著 新潮社

 梅原猛氏の著作は30年来愛読させていただいている。
 梅原氏の考古学ものは、聖徳太子ものにしろ柿本人麿ものにしろ、どれもこれも強引な論理思考で自説を構築していく、トンデモ本すれすれのものばかりのものばかりだけど、膨大な取材と研究をベースに、いずれも独自の迫力でぐいぐいと攻めてくる、妙に説得力を感じるものであり、読み終わるころには、ついつい梅原氏の斬新な新説を信じたくなってしまう。

 今回の本は、江戸時代の僧侶円空をテーマにしたもの。
 12万体の仏像の造顕を請願し、数多くの個性強き円空仏を創作した、巨人的仏師円空の生涯を、彼の残した仏像の地図と写真を豊富に用い解説している。

 円空は異形の仏像を創作した芸術家のイメージが強いが、梅原氏は、仏像に加え、円空の残した和歌や絵画を検討してから、実は円空が大宗教家であり、大思想家であるということを力説している。

 円空が「発見」されたのは、昭和30年代に劇作家飯沢匡氏が円空をモデルとしたドラマを作成し、それがヒットした時らしい。 今までは知る人ぞ知るというマイナー仏師であった円空がこの全国放送にのったドラマにより日本中に有名となり、それ以後円空は仏像に興味持つ人を魅了する存在の座を保っている。

 飯沢氏は、江戸時代という仏教の停滞時のなか作られる仏像は標準的意匠のものばかりだったのに、円空が独創性あふれる仏像を造りえた理由は、「円空は乞食坊主であり、仏教の素養はなかった。円空は出身が木地師(木工品製造の職人)であったため、木の扱いに慣れた職人であり、無学と技術があわさり、あのような仏像を造ることができたのだ」と論じた。
 円空の初期の仏像を見ると、仏教を、そして仏像の伝統的技法を円空がいかに熟知していたかは、驢馬でも駄馬でも分かるので、この説は無茶苦茶なのであるが、世は声の大きい人の意見が勝つことがままある。飯沢氏は、その説は無茶ですよという在野の研究家の反論を、お前らみたいな者に何が分かるかと、反論が出るたび、力いっぱいにそれを否定し、そのうち反論者もその過激な姿勢に恐れをなし、声をあげることもなくなり、円空=乞食坊主・木工職人という説がそれなりに正当性を持つことになってしまった。
 飯沢氏は熱い人であり、自分の説の正当性を主張するときは全力投球であったらしい。

 梅原氏も熱い人であり、この本で、飯沢氏の円空=木地師論を徹底的に批判し、否定している。
 だいたい、円空=乞食坊主論は、円空が自分を乞食坊主と称したことから飯沢氏は円空は乞食をしていた坊主と貶しているわけだが、乞食とは仏教の大事な修行であり、釈迦如来も自らを乞食と称していたわけで、これは円空の卑下でもなんでもない。飯沢氏には、仏教に対する基礎的教養がなかった。そういう人が円空について語るのは問題があるし、そして円空=木地師論にしても、円空が木地師をやっていた記録はまったくない。思いつきのみで、ものを言っては困る。
 てなことを、火を吹くような激しさで語っている。私が思うに、梅原氏も思いつきでものを言うような人であるので、それゆえかえってそういう人の意見に対する攻撃は激しいものを感じる。

 本書の、第二章「円空はこれまでいかに語られて来たか」は、このような円空の本邦での認識論が語られており、たいへん面白い。ここを読むだけでも、本書を買う価値はあるな。


 さて、本書のキモは仏像のみで語られがちであった円空の業績を、遺された和歌とか絵画をともに検討し、その結果、円空が偉大な宗教家であり思想家であったと論じているところである。
 その遺された和歌、…この書で初めて知ったけど、たしかに心をうつものが多く、円空の「心の広さ」を知ることができたが、まあそれでも、稚拙さは否定しがたいのではなかろうか。
 私は本書で、円空の宗教家あるいは思想家としての偉大さを確かに知ったけど、それは年代ごとに丁寧に整理された仏像の写真からである。
 円空は旅を続けた人であるが、明らかに北海道の旅から、彫琢する仏像が格段に深化している。北海道で見続けた人の不幸・苦難というものが、円空の仏教的思想に何らかの影響を与えたことは間違いなく、それ以後の円空の彫る仏像は、ベタな言い方になるが、円空の魂が木のなかからえぐられて出てきたような、そういう生々しさを感じる。

 円空の仏教的思想は、和歌とか絵画とか著作でなく、自らが彫る仏像として結実するタイプのものであり、それゆえ、円空は自分の思想をより深めるためにも、一心不乱に仏像を彫り続けたのであろう。そして、その企ての確かさは、今残された仏像が如実に語っている。

 とりあえず、文庫本のわりには多量に載っている、円空仏の写真を見るだけでも十分に楽しめる本である。

………………………
歓喜する円空

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