登山:烏帽子岳(延岡市北川町)
「烏帽子岳」といっても、地元の延岡市の人でさえどこにあるか知らない人がほとんどだと思う。私も登って初めて知った。
延岡市は海と山に囲まれているところであり、東は日向灘、その他の三方は山々である。山々で目立つ山の名前を挙げれば、南は愛宕山、南方面は行縢山、北は可愛岳(えのだけ)となる。いずれも個性的な山容を誇るいい山で、しかも独自の歴史を持つ山である。愛宕山、行縢山は神話の世界に登場するが、可愛岳は明治の初め、西南戦争の舞台に登場する山だ。南北両方のルートから政府軍に攻められた薩軍が、敗退ルートとして選んだのが可愛岳越えで、その敗走ルートがそのまま登山道として残っている。
可愛岳は花崗岩の岩肌が垂直に聳え立っており、格好のいい山であり、その歴史の探訪も兼ねて、いつかは登りたいと思っていた。
ところで、今は7月の中旬。
九州の山の紹介本をみると、登山に適した月として、7月8月はいずこの山も省かれており、7月は山に登るのは適さない月となっている。理由については、その時期登れば容易に分かる。暑くて暑くて、登ってられるものではないからだ。例えるなら、それはサウナの中で2時間も3時間もランニングをするような行為であり、続けているとまじに生命の危機を感じてしまう。九州の夏の登山なんて、(稜線が吹きっさらしで、涼しい久住山などを除いては)、我慢くらべが好きな人以外には、とても勧められるものではない。
私も10何年以上も前に、何を思ったか、夏に杉ヶ越登山口から傾山に登ろうとしたことがあり、途中であまりの暑さに、脱水症の恐怖を覚えて、撤退してしまった経験がある。それ以来、夏の登山は長野あたりの高山にしか行っていない。
しかし、本日の午後はなにも用事がなく、また山の本を集中的に読んでいたこともあり、山に登りたくなってしまった。そして、すぐ近くにはまだ登っていない面白そうな山がある。本日の天気予報は、曇りであり、降水確率は50%とのこと。蒸し蒸しして、暑い気候ではあるが、雨が降れば涼しくはなるであろう。雨の恵みを期待して、行ってみた。
目的地は可愛岳山頂である。
国道10号線を北川町で、西郷資料館に向かって入ったところが登山口となる。
この案内板より少し進めば西郷資料館がある。
政府軍に追い詰められた薩軍が最後の軍議を開いた屋敷であり、ここで薩軍は解散令を出し、主だった者たちが脱出することになった。可愛岳から高千穂へ向けての敗走路は、大崩祖母山系を越えていく、九州で最も険しい山系を通るルートであり、そこを重い装備をかかえて突破に成功している薩軍は、軍隊としての能力は歴史的評価としては無能であったのだが、山岳レンジャーとしてみるなら、瞠目すべき能力があったといえる。
そういうことはともかくとして、薩軍敗走路は眺めが悪そうなので、帰りにとっておくとして、北側の二本杉の稜線に出るルートでまずは登ることにする。
登ることしてしばらくして、すぐに登山がいやになった
予想通りというか、予想以上に暑く、しかも蒸し暑かった。曇りで、雨がいつでも降りそうな天気ゆえ、暑さに加え、湿度がすごく高い。まさに蒸し風呂のなかを進む登山である。これが寒さとかなら、防寒具と運動で対処することが出来るが、暑さはどうにもならない。動けば動くほど暑くなるし、涼しくする方法など、なきに等しい。…まさか扇風機をかかえて登るわけにはいかないし。行けど行けども、身体じゅうにまとわりつく暑さと湿気に、いつ登山を止めようかとの思いばかり浮かぶ。
標高727mで、しかも途中に水場がある山では、オーバスペックといえる持参の1.5リットルの水を、飲んだり、頭にぶっかたりしながら、じゃんじゃん消費して登りいくうち、うやむやのうちに二本杉の稜線に出た。
ここから稜線に入る。
向こうに見える山が、最初のピークらしく、あれに登ればあとは平坦な道になると思える。しかし稜線に入っても、風は吹かず、暑さ湿気はまったく変化なし。汗がだらだらと出て、飲んだ水がそのまま汗として流れるような気分。
二本杉から見えていた最初のピークに到着。一応標識があり、「烏帽子岳」なる名前がついていた。標高は588mとのこと。
山頂は木が伐採されており、そして南方面が断崖絶壁となっていることから眺めはよろしい。天気のよい日は、延岡市から日向灘が一望のもとに望め、さぞかしいい景色が広がっているものと思える。
今日は天気がよくないので、展望はあまり利かないのが残念。
烏帽子岳から、ちょっとしたアップダウンを繰り返しながら徐々に高度を増して可愛岳山頂へ向かう道に入るが、道は林の中なので、風は吹かず、むしむしと暑いったらあったものではない。稜線上に入れば、風が吹いて涼しい登山が楽しめるのではという淡い期待を持って、なんとか登ってきたのであるが、さすがにイヤになってきた。雲は厚くなってきて、遠くから雷の音が響いてきた。雨は降らずに、雷かよ、と愚痴りたくなる。
そして、雷が鳴ったらさすがに心がくじけた。
あと標高にして150mほど残っているが、こういう真夏に厚着をしてコタツに入るような我慢競技を続行しても、身体に悪いだけである。さっさと下山することにする。
下山中も暑い暑いと文句を言いながら、元の道を辿り登山口に汗まみれで到着。
まったく、夏の九州の低山なんて登るもんではありませんな。
可愛岳はそれなりに人気のある山であるが、今回、まったく他の登山者に会わなかったのは、あまりに当然のことといえる。
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