寿司: 金寿司@熊本市
半年ぶりに熊本市に出たついでに、金寿司に行くことにする。
金寿司は、その酒の質の高さと、肴のユニークさにおいて、九州でも他に追随を許さぬ存在の店と言える。
寿司屋というものは案外に酒に関してこだわりのない店が多く、天下の名店と呼ばれる寿司屋においても、供される酒は一種類ということは珍しくもなく、(たいてい賀茂鶴か、三千盛なのはどうしたものか)、それが寿司を最高の酒の肴と思っている私のような酒飲みにとっては、少々物足りなく感じさせられることとなっている。
金寿司はそうではない。
まず最初に美味い酒ありきだ。(当然、美味い肴と鮨はあとでついてくるけど)
良い酒を種類多く揃え、料理にあわせていくフレンチスタイルの和食屋は、九州でも僅かながらあるが、(鹿児島の「のむら」とか、博多西中洲の「とき宗」とか)、そういう店では、酒は店主の料理のスタイルに合わせたものが一定化されて置いてあるのに対し、金寿司では、その季節に手に入った最上の酒が、料理の相性とは関係なしに(たぶん)出てくる。それゆえ、この店の酒は訪れるたび、いつも違うものが出てくる。…ストック数は膨大なものがあるので、頼めば、特定の銘柄の酒が出てくることは出てくるけど。
今回の酒は、この3種類から。
初めて飲む酒ばかりだったが、どれも個性的で、美味かったっす。
さて、まずは鮨から開始。
白身はカンパチ、ヒラメ、光物はコハダに、アジ。
コハダは浅めの〆かた。コハダは肉厚で、コハダそのものの濃い味が広がります。
シャリは固めの米を使い、かっちりと形を作ったもので、口の中で、米一粒一粒がくっきりと形を感じさせてほどけていく、店主得意の握り方。この鮨を食うと、ああ金寿司の鮨だなあと、すぐ分かる。個性豊かな、美味い鮨です。
鮨を食って、腹を満たして落ち着いたのち、肴へと移る。この肴で、酒を思いっきり飲むのである。
カタクチイワシを開いて、塩辛にしたもの。これをオイルに漬けると、オイルサーディンです。
カタクチイワシの身が塩辛になることで熟成して、旨みがぐぐんと増している。
当然酒によく合い、酒が進む、進む。
そのあたりの居酒屋で出てくるシシャモはロシアあたりから輸入される、正式名称カペリンなる魚なわけだが、この店で出てくるのは北海道産の、本シシャモ。
やたらに歯ごたえよいカペリンはビールに合うので私は好きだが、こちらの本ししゃもは、あちらに比べ、まろやかで落ち着いた、広がりある味を楽しめる。当然、酒に合うのはこちらであり、酒が進む、進む。
たぶん熊本ではこの店でしか出ない珍味、藤壺。
藤壺って、そのへんの海辺で磯にしがみついている貝みたいなやつであるが、このようなものをただ焼いては磯臭くて食えたものではないように思えるけど、この店のものはそうではない。
食用にわざわざ養殖した青森産のものであって、磯臭さなどまったくなく、海老蟹同様の甲殻類独特の香りと旨さが、殻の中に充満している。藤壺は、海老蟹同様に、焼けば中に旨みが濃縮してたまるという作りになっており、中のスープの美味いことといったら。これを肴に、酒が進む、進む。
…同じようなことを書いていてもしかたないような気がしてきたが、これから後に紹介する肴も、すべて酒が進む、進むのである。
内臓の苦味と塩辛の辛味がいい調和をなしている。
ホヤにコノワタを合えたもの。
ホヤの食感に、コノワタの濃厚な味がからむ、二重奏形式の酒の肴。こういうのが、まさに「酒盗」なんでしょうな。
チーズのごとき風味を持つ豆腐に、柚子を和えて。これも絶好の酒の肴。
以上の肴で、酒をさんざん飲んで、〆の鮨へ。
金寿司名物の明太子の鮨。
一粒一粒の卵がくっきりと分かるこの明太子は、この店のシャリにうまく調和しています。
この店のマグロは、たぶん熊本で一番いいものが出ている。
熊本は、(というか九州は)、あまりマグロを好む文化圏ではないが、そのなかでこのレベルのマグロを仕入れているのは、立派なことだと思う。
穴子はタレと塩で。
ふんわりした食感はいつもながら見事。
たらふく食って、さんざん飲んで、あとは定番の冷菓子とホウジ茶にて終了。十二分に満足しました。
東京で修行したのち、店主は熊本に店を構え、熊本一の寿司屋と呼ばれ、長く経つ。
「金寿司」なる店名の由来は、店主の名前による。遠山という名前の男性は、常に「金さん」と呼ばれる定めにあるのだが、最初店主は、修行した店の名前を暖簾分けする形で用いたかったのに、親方から素行不良(笑)を理由に駄目と言われ、それならと、あだ名をそのまま店名にしたというわけ。
遠山の金さんそのもののごとき気風の良い店主が統べる店ゆえ、その名前は、ばっちり決まっていると思います。
金寿司 熊本市下通り1-11-20 TEL096-351-2053
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