剱岳の思い出
剱岳は7年前に一度登ったことがある。
日本を代表する名峰なので、季節を変えて数度は訪れたい山だが、なにしろ不便なところにある山であり、九州から行くとすると、富山空港へは福岡から午後に着く便が一本あるのみで、(しかも今は、富山―福岡便そのものがなくなってしまった)、いまだ一回しか訪れる機会を得ていない。
そのとき見た剱岳の威風堂々たる姿は印象強いものであり、今回の映画を見て、あの時の好天のもとの剱岳を思い出し、北アルプスの縦走も含め懐かしく思った。
剱岳登山は、室堂平を登山口とする別山尾根ルートが一般的となっている。
しかしこのルートは、登山口の室堂平の標高が2450mもあるのが問題だ。何度目かの登山ならいざしらず、最初の剱岳登山において、2450mの高さから、2999mの山に登るのは、いくらなんでも反則ワザであるだろうと思い、夏にはあんまり使われていない早月尾根ルートで登ることにした。
このルートの登山口の馬場島は、標高750m。山頂まで一日で2250mの高さを登る必要があり、登りがいのあるルートであるが、この尾根、「馬鹿尾根」と称されるだけあって、いざ登り始めると、その馬鹿さにうんざりしてしまった。なにしろ樹々に囲まれた登り道がえんえんと続いていくので、展望はきかないし、風は吹かないし、暑さがこもるなか、ただただ坂を登っていくという、山登りというよりは我慢比べのトレーニング的コース。もう二度と行かんわい。
ようやくにして、標高2200m地点の早月小屋に到達するころ、道は岩稜帯に入り、視界は一挙に開け、ここからが眺めもよいし、道も変化に富み、がぜん面白くなる。
険しい岩の巨大な塊である剱岳が、晴天の下にくっきりとその姿を見せている。
明治時代、ここから山頂を目指した測量隊は、稜線の大きな切れ込み(キレット)と、二本の岩塔に行く手を阻まれ、それ以上の行動を断念したと記録に残っているが、それから100年近く経ち、地形が変わってしまったみたいで、さほどの難所はもはやなかった。いくつかの鎖場はあるが、鎖に頼るほどの難路はなく、周囲の絶景を楽しみながら、剱岳山頂に到着。
瓦礫を積み上げたような山頂に、祠が設置されてある。
この祠、現在は映画撮影のために撤去されてしまっているとのこと。なんと罰当たりな。
劔沢への下り道は、有名な「カニのヨコバイ」を通る。ここは最初の一歩目のスタンスが見つけにくく、一歩目を踏みだすのにちょっとしたコツがいる。
見ての通りの断崖絶壁で、ここで足を踏み外して、鎖から手が離れると、一挙に劔沢まで落ちていくこと必定の、スルリ満点の難所だ。
さすがに、ここだけは鎖に頼らないと、とても通る気がしない。
そういえば早月小屋で休憩していたとき、小屋の主人から今日はどこまで行くかと聞かれ、「劔沢です」と答えたら、「あなたは速そうだけど、ヨコバイで渋滞があるから、思ってたとおりの時間には劔沢には着かないよ」と忠告された。たしかにちょっとした渋滞はあったけど、ウワサに聞いていた「足のすくんだおばさん達が行列をつくっている、2時間の待ちの渋滞」てな渋滞は、運良くなかった。
しかし今年の夏は、映画のせいで、すごい渋滞が生じることが予想されますな。
カニのヨコバイは、明治の測量隊が山頂へのルートをさぐる際、ここを案内人宇部長治郎が裸足で突破に成功したところだ。(小説の記事からはそうだと思う)
しかし、他の者が測量の機材を持って登れるルートではとてもないので、ここを使った登頂路は採用されなかった。
ところで、カニのヨコバイを越えると、山頂まではとくに難所はなく、この壁を越えたところで実質的に剱岳登頂は果たしたことになる。公式には近代で剱岳登頂に成功したのは、測量隊の生田信ということになっているが、実質的には長治郎が、初登頂者といってよいだろう。
劔沢の小屋に泊まったのち、私は上高地へ向けて北アルプスをえんえんと縦走していった。
その間幸運なことにずっと好天に恵まれ、剱岳もいろいろなところから望むことができた。
そのうちの何点かを紹介。
剱岳は劔沢からは、前劔が邪魔するのであんまり姿がよくない。別山乗越まで登ると、姿がよろしくなる。
剱岳は、別山から見るのが姿がもっとも美しいとされている。
険しい岩稜の尾根を両翼に張った、岩と雪の殿堂たる剱岳が、圧倒たる迫力をもって大地に鎮座している。
雄山からは、別山の後方に聳える剱岳を眺めることができる。
立山を御神体とする雄山神社であるが、この風景をみると、剱岳もまた御神体である神社のように思える。
竜王岳のもとの、立山三山と剱岳を一望できる、好写真撮影スポットより。
ここまで来ると、だいぶ剱岳も遠くなっている。
なだらかな山々が連なる立山連峰のなかで、剱岳のみが、険しい岩峰を空に突き立てた異形の姿であることがよくわかります。
立山を超えて剱岳と別れ、五色ヶ原山荘に泊まった翌日は、薬師岳を越えていく。
この薬師岳が、剱岳に負けず劣らず、馬鹿でかい山であった。
立山連峰って、山の規模がむやみとでかいところであり、立山連峰の縦走は、縦走というより、3つのでかい山をそれぞれ登り降りするという感覚であった。
北アルプスの山々は、稜線に出てしまえばさほどのアップダウンがなく山が連なっているのが普通なのに、この立山連峰のみは、そういうことを許してくれないハードな山系であった。
「登山」カテゴリの記事
- 森の貴婦人に会いに行ってひどい目にあった話(2020.06.27)
- 令和2年5月 宮崎のアケボノツツジ(2020.05.10)
- 地球温暖化を実感する @冠山~寂地山登山(2020.02.23)
- アクロス山に登ってみる@福岡市(2019.11.16)
- 滝で涼みに日向冠岳へ(2019.07.06)
The comments to this entry are closed.
Comments