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June 25, 2009

【マイケル・ジャクソン追悼】 ムーンウォークの勧め

 マイケル・ジャクソンの訃報を聞き、彼が全盛期を迎えたころを知っている者は、それぞれの感慨を持ったであろう。
 私としても、彼の音楽およびプロモーション・ビデオはおおいに楽しませてもらった世代であり、彼の早すぎる死をとても残念に思っている。

 マイケル・ジャクソンの文化への貢献は数えきれぬほどあろうが、私は彼の踊りが一番だと思う。マイケル・ジャクソンの踊りは、シルエットで見ても、「誰も見てもマイケルの踊り」だと分かる、独特にして個性的なものだ。
 マイケルの踊りは、タップダンスとパントマイムを彼独自の感性で統合させたものらしいけど、素晴らしいセンスで突き詰めていったダンスは、マイケルのダンスとしかいいようのない、独自のアートとなっている。新しいジャンルのアートの創造って、天才にしか出来ない偉業であるが、マイケルはそれを成し遂げた人であった。
 そのダンスのなかでも、とくに有名なものが、かのムーンウォーク。

 歩くこと。
 人間にとって歩くという行為は、極めてありふれた日常的なもので、歩くことが出来る人なら、人生でこの行為に使っている時間は、膨大なものになるであろう。しかしながら「歩く」という運動は、あんがいvariationが少ないもので、普通の人は一種類の歩き方しか用いず、その歩き方で一生を過ごすことがほとんどであろう。
 歩くことに用いる時間を考えると、ただ一種類の歩き方のみで、人生のかなりの時間を使うのはもったいない、とも思える。そういう「歩行」の常識のなか、M.ジャクソンは新たな歩き方を創設し、宣伝し、世に大々的に伝えたわけで、…これってけっこうすごいことじゃない?

 ムーンウォークについては、Youtubeとかで検索するといくらでも動画が拾えるし、またレッスン法も載っているので、習得法はどこでも得られる。
 …ただ、あれらを見ていると、ある程度ダンスが出来る人向けのレッスンに思え、私のようなド素人には分かりにくいものがある。
 あとで書くけど、ムーンウォークは、素人こそ行うべき歩行法とも思えるので、「素人でもやれる」講義を、無謀にも私が書いてみることにする。

【基本型】
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 まずは基本型から始めよう。私に絵心がないのは、勘弁してもらうとして、これは人間が歩き始める最初の形である。
 前にまっすぐ伸びている足が前足て、後ろの膝を曲げている足が後ろ足である。
 歩行とは、この基本型の繰り返しである。

【歩行】
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 すなわち歩行とは、前足を地に平らにしっかりとつけて、重心の受け場とする。後ろ足は膝を曲げエネルギーをたくわえ、前足の準備が出来た時点で、つま先で軽く地面を蹴って、赤の点線に示す軌道で先に進める。この間、前足に体重の全てがかかる。
 後ろ足が前に出てしっかりと地面についたら、今度は先ほどの前足の膝を曲げ、さきと同じ運動を同様にを行い、この繰り返しで歩行は成り立っている。
 字で書くと簡単なようだが、これら一連の行為は、精緻にして複雑微妙なバランスの調整が必要であり、ものすごく面倒な演算計算を要する運動であった。そのため哺乳動物で恒常的に二足歩行ができるのは結局人類だけであったし、二足歩行ロボットが現実化されたのは、20世紀も末の話であった。

【ムーンウォーク】
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 さてムーンウォークである。
 ムーンウォークは「前の方へ歩く格好をしながら、滑るように後ろに進む」という歩き方である。具体的に、どうするかというと、
 基本型のフォームで曲げた後ろ足を前に進めるのでなく、その後ろ足を固定して、平らに置いた前足の方を後ろに進め、それを繰り返せば、ムーンウォークだ。
 字で書けば簡単だけど、やってみれば大変なことがすぐ分かる。
 まず、「膝を曲げた後ろ足を固定して前足を動かす」であるが、この後ろ足には当然全体重がかかるわけであり、「膝を曲げてつま先立ちした足で全体重を支える」必要がある。それには、下腿の筋肉がよほど鍛えておかねばならない。
 さらに、ムーンウォークには守らねばならない基本がいくつかあり、

(1)前傾姿勢を保つ
(2)身体の軸を縦軸とも横軸とも固定する。具体的には横から見て、頭と腰の高さが一定、前からみて身体がまっすぐを保ったまま、体の移動を行う。
(3)足の交互の入れ替えはスムーズかつリズム正しく行い、流れのなかで一旦停止の部分があってはいけない。

 これらが守られていないと、いくら本人がムーンウォークをしているつもりでも、まわりから見れば、それは「単なる、あとずさり」ということになる。

 ここでまず問題になるのが(1)と(2)である。前傾姿勢を保つ場合、前傾姿勢というものは前に歩くならその前傾の重力を吸収するべく足が進むのできわめて自然な運動なのに対し、後ろへ移動するのに前傾姿勢を保つことは、そもそも物理的に無理がある。後ろ移動のさいに前傾姿勢を保つために、身体に芯をきちんと入れねばならないし、さらにそれを(2)のごとくに自然な形で移動させるには、腹筋・背筋・腸腰筋の全てを鍛えて、重力に逆らえる筋力を持たねばならない。

 以上のように、ムーンウォークは、下腿および体幹の筋肉がしっかりとしていないと出来ない運動である。
…ということは、逆に考えれば、ムーンウォークを日常的に行っていれば、自然に下腿・体幹の筋肉が鍛えられることになる。
 下腿・体幹の筋肉といえば、山登りや自転車(というかスポーツ全般)において、とても重要な筋肉だ。ここを鍛えていないと、その運動を支える芯がなく、やっていてもただただ疲弊する何が何やら分からない運動をやっていることになる。それゆえ、ここの筋肉を鍛えることは、スポーツを楽しむことの重要課題であり、必須項目なのだ。
 しかしながら、社会人というものは、日頃トレーニングする時間がなかなかとれないものであり、そうそう簡単にはジムに行くとか、周囲をランニングするとかは出来ないことが普通だ。でもここで、室内でもできる運動で筋肉が鍛えられる歩き方「ムーンウォーク」はとても魅力的かつ実用的に感じられる。

 それで、ムーンウォークを普段の歩行の補助に使えば、筋力の鍛錬の一助となるはずであり、明日にでも実行したくなる。
 しかし、ムーンウォークには、(1)(2)以外にも、注意ポイントがあり、じつは(3)が最大の問題となる。ダンスを日常的にやっている人には問題ないのだろうけど、我々ド素人には、このリズム良い運動というのが難しく、もともと重力的に無理のあるムーンウォークを、ダンスの基礎がなき者がやれば、ギッコンバッタンの、ぎくしゃくとした運動になるのが当たり前で、滑らかな運動にはなり得ない。

 そこで私が提唱するのは、「前に進むムーンウォーク」の技術習得である。
 後ろに進むのがムーンウォークなので、前に進むムーンウォークなど、意味自体をなさないという意見もあろうが、もともとこのブログ自体がたいした意味がないので、そのまま話を進める。

 ムーンウォークが面白いのは後ろ向きに滑るようにして身体が動くことであり、では足を逆の方向に進ませれば前に身体が滑るはずである。それにはどうするかといえば、

【前方向ムーンウォーク】
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 話は簡単で、膝を曲げて、今にもポーンとつま先で地を蹴るエネルギーをためている後ろ足を、そのまま地面を這うようにまっすぐ進めるのである。そして後ろ足が進みきって伸びた形で固定したところで、前足の膝を曲げて、元後ろ足に重心を移動したところで元前足を進め、これを繰り返すと、前方向のムーンウォークとなる。
 この前方向ムーンウォークは、進む方向への前傾姿勢である、体重を支える足がフラットなので無理がない、との2点から、本来のムーンウォークに比べはるかに自然な運動であり、習得が容易である。これでリズムをしっかり覚えれば、ムーンウォークはこれの単なる逆運動なので、案外無理なくムーンウォークが習得できたりする。(はずである)

 さて、これで、だいたいムーンウォークの基礎ポイントが理解できたはずだ。どんどんムーンウォークを行うことにしよう。先にも述べたように、日常生活において、スポーツに必要な筋力を得るにはムーンウォークは、理想的に近い運動であり、推奨すべき運動と断言できる。

 …しかしながら、その実行に対しては、ひとつ問題がある。
 本邦ではムーンウォークはまだ日常的動作として市民権を得ていない。そのため、街中でも、建物内でも、この歩き方をしていると奇異の目でみられてしまう。ましてや職場でムーンウォークなどしていると、変人あるいは変態と思われてしまう危険性が大である。

 それがゆえに、ムーンウォークで歩きたいと思ったら、周囲をしっかりと観察して、誰もいないことを確かめてから行う必要があります。長~い廊下などで長距離のムーンウォークやっていると、廊下の上をすいすい泳ぐミズスマシになったような気になり、快適な気分になれますが、そこで誰かがやってきて目撃されると、冷たい目で見られる必定であり、お互いに気まずい雰囲気になって、のちの仕事がやりにくくなってしまったりします。
 経験者が語るのだから、説得力あるだろう。


 あの偉大なマイケル・ジャクソンの貢献にもかかわらず、本邦はまだまだダンスの文化は浸透していない。
 マイケル・ジャクソンは今年に復活ライブを行う予定であった。それが実行されれば、あのダンスがまたセンセーションを巻き起こし、昔よりはダンスに寛容的になった本邦に、ダンスの面白さ、素晴らしさを教え、ムーンウォークが日常的動作として市民権を得られるようになったかもしれない。
 そう思うと、彼の急逝はかえすがえすも残念であった。

 稀代の天才ダンサーでありアーティストであるマイケル・ジャクソンに、哀悼と追悼の念を捧げ、この項を擱筆することにする。
 私が生きた時代に、あなたのダンスと歌を経験することができて、心から感謝しています。

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