5月初旬は祖母傾大崩山系で、アケボノツツジが咲いている時期なのであるが、ドタバタしているうちに5月も中旬となりそうだ。今のうち登らないと花が全部散ってしまうだろうから、大崩山に登ることにする。
祝子川登山口より登山を始めること10分、今日がとても暑いことに気づく。歩いても歩いても、まわりに生あたたかい空気がまとわりつき、汗がだらだらと出てくる。こりゃ5月の気温じゃないぞ。(あとでニュースをみると、本日は最高気温が30度を超える真夏日だったそうだ)登山の大敵は暑さである。暑さは体力と気力を奪い、登山の楽しみをおおいに減じてしまう。そういうわけで、こりゃたまらんと暑さにめげて帰ってもいいのだが、大崩山は逃げないけど、アケボノツツジは逃げる。今日は、今年のラストチャンスであろうから、しょうがなく、あづい、あづいとわめきながら、てくてくと登っていった。
【小積ダキ】

登山ルートは登りを「わく塚コース」にとる。このコース、祝子川を徒渉してから始まるが、そのときに広がる光景はじつに素晴らしい。誰しも初めてここに立つと、この風景にたまげます。白く輝く巨大な花崗岩の岩の塔が、突兀と、蒼天に向かい聳え立っている。この岩塔の名前は、「小積ダキ」といい、登山のコース中、頂に登ることができます。
なお、今日は空気が少々霞んでいて、小積ダキが少しぼやけている。
4年前に登ったときは、空気が澄んでいて、小積ダキの絶景がよりはっきりと見えたので、参考までにその写真も載せてみる。凄いっす。
【小積ダキ 4年前】

【徒渉部の橋】

先の写真にも小さく写っているけど、大崩山登山最初の難関の金属製の橋。けっこうぐらぐらして、足場が悪く、初級者とかには渡るにはちょいと厳しい。数年前は、これは丸太の橋で、もっと恐かった。
それより前の20数年前は、大崩山登山道は梯子やロープが少なく、技術と根性で登るアスレチックフィールド的な山であり、山慣れした人しか来ない山であったのだが、近頃は整備も進みだいぶ登りやすくなっている。
もっとも、山のつくり自体が険しいので、今でも九州では一番ハードな山であろう。
【稜線で見る下わく塚】

山の中に入り、日陰になっても相変わらず暑い。あづい、あづいと、なおもわめきながら急坂を登っていくうち、稜線上に出る。さすがに風が吹き、暑さは一段落。
ここからの眺めが、また素晴らしい。大崩山は花崗岩で出来た山であり、稜線もずっと花崗岩の岩肌が露出している。その稜線に、3つ大きな岩の塊が突き出ており、それぞれが「下・中・上わく塚」と名付けられ、これらを巡っていくことになる。
【アケボノツツジ】

下わく塚へ向かうところで、本日お目当ての、満開のアケボノツツジを発見。
ピンクの大きな花が、まるで灯りを点すかのように、木の枝に何百も咲き誇り、大きな燭台のようになって、周囲にピンクの色をまき散らしている。この木が今日見たアケボノツツジのうち、最も立派なものであった。たぶん誰しもそう思うようで、この木は登山道から少し離れたところに立っていたが、そこに向かう道が専用にできていた。まさに、「桃李言わざれども下おのずから蹊を成す」の格言を、地で行く木である。
アケボノツツジは標高の高いところでしか花をつけないので、登山者のみ御用達のような花であり、このような美しい花を見るだけでも、大崩山登山の価値はありますな。
【下わく塚】

下わく塚からの眺望。向こうに桑原山が見えます。
下わく塚から中わく塚は、花崗岩の痩せた稜線を歩くことになり、高度感抜群。このコースで一番楽しく、また眺めもいいところで、文句なしのハイライト。
【中わく塚】

中わく塚から見る上わく塚の光景。
中わく塚から上わく塚へは稜線が切れ落ちて、キレットとなっており、ここを直接渡って行くのは不可能。ロープ持って行って、支点つくって懸垂すれば行けるかもしれないが、そういう人は見たことない。
それで、ここからは下に大きくいったん下り、また登り返すことになる。かなりの距離を下るので、初めてのときなどは、道を間違っていないかと不安になったりします。
【(たぶん)ホシガラス】

その上わく塚へ向かう途中、妙に甲高い声でカラスが鳴いている。変なカラスがいるもんだと、鳴き声の方向を見ると、小柄なカラスがいて、どうもホシガラスのようだ。長野の山ではいくらでもみるホシガラスだけど、九州で見るのは初めだなあ。というか、ホシガラスって九州にいるんだったっけ? でも、尾の白いカラスなんてホシガラスしかいないだろうから、ホシガラスではあろう。あとできちんと調べようと写真に撮ってはみたが、遠くてよく分からん。
【上わく塚】

上わく塚は、3つのわく塚の中では登るのがやや困難で、ちょっとした岩のテクニックがいる。
以前はここを直登するときは、右側の岩角沿いによじ登るルートで登っていたけど、いつのまにかチムニー(岩溝)に梯子とロープがかけられた直登ルートができている。これは便利だ。さっそくここを登ってみる。
【チムニー出口】

このチムニー、最後に抜けるところは、チョックストーンがはまっており、トンネル状になっている。これをくぐらないと抜けられないのだが、相当な狭さであり、ザックかついでいると通過するのは無理だ。ここでザックをおろすには、ロープから手を離し、不安定な足場で足を岩溝にはめこんで体を固定して、ザックをおろさないといけない。そんな危ないことを敢えてする理由もないので、おとなしく引き返す。
あの穴くぐるのは、空身でもいやなので(汚れそうだ)、巻き道使って上に登ってみた。
【チムニー出口2】

上方からさっきのルートを見おろしてみる。矢印が出口の穴だが、ここから降りる気もまったくしない。使い道の難しい、新ルートである。誰か使ってた人いました?
【七日廻りの岩】

上わく塚に登ると、ここでのみ、大崩山名物の奇岩「七日廻り岩」を見ることができる。原生林のなかに、にょっきりと一本だけ生えたキャラメルブロック様の岩の塔。かなりの昔、修験僧がこの岩に登ろうと7日まわりとぐるぐる廻ったけど、登る道を見つけられなかったため、そう名付けらたという謂われがあるが、昔の(今も)修験僧の山登りのテクニックはたいしたものゆえ、そんなことがあろうはずなく、たんなる伝説であろう。
上わく塚を超えから稜線は花崗岩から離れ、クマザサの茂る道となる。ずっと登っていくと大崩山山頂に着くのだが、これが面白くもない道で、山頂もまったく眺望が利かないこともあり、山頂へは向かわず、リンドウの丘経由で坊主尾根より下山することにする。
大崩山は九州本土で一番美しい山だと思うけど、山頂だけは、魅力に乏しい。一度登れば十分という気がする。じっさいに一回登ってしまえば、次からは山頂をカットするルートを選ぶ人が多い。
【リンドウの丘より】

展望のテラス、リンドウの丘よりわく塚稜線を眺める。
あの変化に富んだ稜線を歩いてきたのだなあ。
【象岩】

登山口より歩くこと3時間半にて、あの高く聳え立っていた小積ダキ頂上に着。
ここからの眺望はもちろん素晴らしい。右手には、大崩山名物「象岩」が見える。見ての通り、象の形をした岩で、この下にトラバースの登山道が刻まれている。ちょうど2名が下山中である。このトラバースルートは一枚岩の上にあり、落ちるとまず命はないという道だが、ワイヤーやステップもあってよく整備されており、ここから落ちた人の話は聞いたことがない。ただし、通過時は細心の注意が必要であって、ゆっくりと進まねばならず、シーズン中などは、ここでよく渋滞が起きる。
【参考:4年前の渋滞のシーン】

【坊主岩】

「坊主尾根」という名前は、途中にあるこの特徴ある形態をした「坊主岩」から名付けらている。この岩は、他に「米塚」という異名も持つが、見ての通り、そういう形の岩だ。
坊主岩はつるつるの花崗岩のスラブであり、これに登るのはまず無理であろうが、登ろうとした人がいたみたいで、よく見ると、岩肌に一列リングボルトが打たれている。
【リングボルト】

まともな手がかりも足がかりもないし、規則正しいピンの打ち方からは、アブミかけての人工登攀で登ったのでしょうな。いったいいかなる人がこんな山奥の岩で登攀を試みたのであろうか。
下山して、大崩山の登山基地みたいなところである温泉館「美人の湯」の管理人さんに聞いてみたが、「10年以上前からボルトはあるけど、どのグループが整備したとかは知らないなあ」とのこと。「あそこは目立つところだから、登ると顰蹙ものなので、登ってはいけませんよ」と言われたが、こんな腐りかけたボルトに命預けて登る度胸など私にはありませんって。
坊主尾根は、よくもこんな険しく急峻な痩せ尾根にルートを作ったものだと感心するようなルートであるが、そのずっと続く急坂にうんざりするうちに、沢の水音が聞こえだすと、ようやく道はゆるやかになり、そうするうちに祝子川に出て、登山口へと到着。
4年ぶりに登った大崩山。
やはり素晴らしい山である。近くに住んでいることから、緑あふれる初夏、紅葉の秋、雪と氷の冬に、また登りに来よう。
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おまけ。
大崩山の山頂は魅力には乏しいけど、一度は頂点には登るべきなので、ピークハントの意味で登る価値はある。
しかし、大崩山の山頂にはちょっとして仕掛けがあり、それには留意する必要あり。
大崩山は、以前は標高1643mの山だったが、2004年に標高が改定され、1644mとなっている。2004年は、全国的に山の標高の見直しがされ、今までは三角点の位置がその山の標高とされていたのだが、実際に一番高いところを山の標高としようという方針のもとに、全国の山が測定されなおされ、その結果、九州では傾山と大崩山の標高が変更になった。
これは九州の、(おそらくは全国でも)、山好きの人に話題となり、真の山頂getを目指し、登りなおしたモノ好きが、けっこういたりする。(祖母山九合目小屋の宴会で、よく話題になりました)
【大崩山山頂】

これは4年前の写真である。標高1644mと書いているけど、当然変更後に書き直しているのだ。写真で見える標識の下の三角点は、もはや山頂でなく、真の山頂はその左横の、赤矢印をつけた1mほどの高さの岩である。
それで、大崩山に登頂するには、この岩に登って、初めて達成したことになる。
【真の山頂】

というわけで、面白くもなき大崩山の山頂に、真に登るには、この岩に登る必要あり。
これは、大崩山の標高が変更になったと聞き、わざわざ登った、モノ好きな者の、足の写真である。
ただし、山頂まで来て疲れた身で、この足場が安定しているとは言い難い岩に登るのは、他の登山者には、全く勧めません。1mほどの高さの岩ですので、手でタッチでもすれば、真の登頂を触ったことになりますので、それで山頂Get完了と思いますので、それを勧めます。