読書:テンペスト 池上永一 著
昨年出版され、世評高くずいぶんと売れている本とのことである。幕末期の琉球の歴史が書かれているとのことで、幕末史好きなことから読んでみることにした。
冒頭は、琉球国の空を龍の群れが暴れまくって嵐を呼び、その嵐のなか琉球の運命を託されることになる、神の子が生まれるというシーン。ファンタジーかと思いきや、それに続く、琉球の中国流の官吏登用試験についてはずいぶんと詳細に現実的に述べられ、どうにもしっくりこない。主人公は、13歳にて儒教の教科書すべてを暗記し、さらには漢語・英語・ドイツ語・日本語も完璧に語ることができる超秀才であり、官吏登用試験に容易に受かる力を持つが、あいにく女性だったのであり、男尊女卑の世の中では試験を受けることができない。そのため宦官ということで性をごまかして、めでたく試験に合格し、官吏になる。彼女は極めて有能であるため、王の覚えもめでたく、出世を続けることになるが、あるとき大蛇に化けて大奥を襲う、清国の化け物大使と対決することになり、彼を殺したことから、殺人の罪で島流しとなる。宦官と称するも、成長した彼女はじつは絶世の美女であり、島で踊りを踊ったことから、その美貌と芸により、琉球に宦官とは別人として戻ることになる。彼女はそこで王の側室を選ぶ試験を受けるはめになり、受かってしまい側室になる… とかいう話。
琉球王国の衰亡・滅亡を背景に、あまり魅力的でない女主人公の波乱万丈の人生が語られるわけであるが、なんというか、浅田次郎と小野不由美と菊池秀行を、それぞれ出来を悪くして、足して3で割ったような作風だなあ。
上巻を読んだところで、読み返すこともないだろうから、下巻は立ち読みで済ませてもいいかと思ったが、二段組み427頁の本を立ち読みする気力はなく、結局買って読んでみた。
下巻が気にはなるのだから、面白くないということはなく、どころか上下巻800頁を超える長編を飽きさせずに読ませるのだから、たいした筆力の持ち主だと思う。ところどころ(大奥の権力闘争とか)、文章があまりに幼稚なところがあり、そういうところは改善の余地はあると思うが、将来的にはもっと密度の高い、立派な長編を期待できるのでは、と思いました。
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テンペスト 池上永一 著
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