読書:「透明人間の納屋」 島田荘司 著
島田荘司の新刊と思って買ったら、2003年にジュニア向けに書いたも単行本をノベルス化したものであった。この本、読んでいて文体・内容に少々違和感を感じたが、それで納得。
本書では、女性の失踪事件が語られる。そのメイントリックは、密室もので、それにいくつかの謎がからむ。
(1) はめ殺しの窓しかないホテルの一室、ドア前には作業中の人がずっといて、その人たちに気づかれずにドアから出ることは不可能。しかし、その部屋から忽然と一人の女性が姿を消した。
(2) 女性は後に遺体として、海岸から発見される。しかしその場所はホテル(海に面している)からは、潮流の関係で、遺体がそこに流れることはあり得ない場所であった。女性は人為的あるいは超自然的に動かされたようだ。
(3) 女性が亡くなる時間に、主人公は自分の部屋の中で、この時間にいるはずのないその女性を見た。しかも女性は、なぜか半透明の姿であった。
以上のように、それなりに魅力ある謎が盛り込まれた事件ではある。
ミステリの本道「密室もの」は、ありとあらゆるトリックが考え出され、もう新しいトリックはないだろうと言われている。それゆえ、現代の密室ものをテーマにしたミステリは、パロディか、トンデモものになるしかないとされているが、島田御大が久々に挑んだ密室ミステリーのトリックは、…つまらんな。
それこそ、今までに考え出されたトリックをいくつか組み合わせただけのもの。御大は、トンデモ系が得意であったはずだが、今回は平凡すぎる。
その他の謎(2)(3)についても、解答は、ふ~んとしか言いようのないもの。
本書では、この事件に、朝鮮半島から来た工作員の物語が副筋(こっちが本筋?)として語られる。自らを、所在なき透明人間として認識し生きるしかなかった種類の人の悲劇を書いているつもりなのであろうが、…現実的には、彼らは意味もなしに災いをもたらし、そしていまだに災いが続いている悪霊のごとき存在だったのであり、ちっとも同情する気が起きなかった。
島田荘司の社会ものは、まったく同情できない人たちを対象に書いているものが多いけど、これもその一種なんでしょうな。
読後感はいいものではなかったが、退屈はせずに読み通せた。
いつもながら、作者は筆力のある人だと思う。
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読書:透明人間の納屋 島田荘司 講談社ノベルス
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