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February 13, 2009

書評:ローマ亡き後の地中海世界(下)

Ruins


 ローマ帝国が滅び、地中海が無法の地となり、アフリカ北部に海賊を業とする者たちが現れて地中海を荒らしまわり、地中海沿岸に住む人は恐怖の日々を迎えることになった、というのが前巻の内容であった。

 本巻では、今までは一応は非合法的存在であった海賊が、なんと合法化され、海賊組織が拡大されるという、由々しき事態が生じた時代について語られている。

 16世紀前半、オスマン帝国にスレイマン大帝という傑物が現れる。領土獲得に燃える大帝のもと、オスマン帝国はヨーロッパ東部を飲み込んでいきながら、領土を拡張し、その結果地中海沿岸は3分の2がオスマン帝国の地となる。
 当時のオスマン帝国は、ヨーロッパに対し、文化・文明ともに圧倒していたため、ヨーロッパ全土がその支配下に陥ってもおかしくはなかった。しかし、基本的に内陸国であるオスマン帝国は、強い海軍を持ってなく、正規の海軍はあきれるほど無能であり、そこがネックとなって、ヨーロッパの侵略は一定以上進まなかった。
 スレイマン大帝は海軍強化のために思いきった手をうつ。自国では優秀な海軍は組織できない。そこで海の戦いのプロである海賊の頭領を軍総司令官に招く。傭兵ではなく、公式に正規海軍のトップに据え、海軍を組織しなおしたのだ。これにより地中海の海賊は、オスマン帝国公認の存在となり、その略奪行為は加速度を増し広範囲となり、大規模になる。
 オスマン帝国の海賊海軍は、当然ながら略奪行為に加え、国家レベルでの海戦を、ヨーロッパに対して挑むことになる。これに対抗すべきヨーロッパ諸国は、合従連衡なんて言葉はなきに等しく、お互いに足の引っ張り合い、引きずりあいにばかり力をいれ、強大なオスマン帝国に対する共同戦線をはることができない。
 ヨーロッパがオスマン帝国の海軍をなんとか退けることができたのは、ひとえに、当時のヨーロッパのなかで唯一まともな戦術、戦略をもつ海軍を有するヴェネツィアという国が海戦の司令塔となっゆえである。
 ヴェネツィアという国は、他の国々が、宗教やらイデオロギーや面子やらにこだわり続けるなか、一貫して現実的思考をする国であった。国を益することに対して、生々しいまで現実的思考を行い、行動する。…だいぶ前に塩野氏の「海の都の物語」を読んだとき、泥の干潟のうえに生まれた人工国家が、欧州のなかで最も富を得、最も美しい芸術を生み出す栄光の日々を送り、やがてゆるやかに衰亡していく物語に、ロマンチックで幻想的なものを感じたが、じつはこんなに現実的な国だったことを知って、少し驚いた。というより、「海の都の物語」でもそのことは書いていたはずなんだけど、読み方が甘かったか。

 地中海の海賊は、オスマン帝国の弱体化と、産業革命に成功したヨーロッパ諸国の興隆によるアフリカの支配によって、ようやく終焉する。

 地中海世界がローマ帝国亡きあと、海賊が跋扈する地になってしまったのは、「犯罪行為は罰せられる」という、人間社会の法ルールが機能しなくなったからであった。
 ローマ帝国が地中海世界に与えたものは法秩序である。国家が国民の安全を保障し、法体系を整備し、国民に遵法精神がいきわたれば、国家はかならず繁栄する。国家の衰退は、国家が安全を保障できなくなり、国民に遵法精神が失われたときに起きる。

 そして、今なお北アフリカの地は、ローマ亡き後の世界である。

 上下巻をそろえて初めて全容が見える表紙の遺跡は、北アフリカ、リビアのレプティス・マグナである。この地中海交易の拠点地として栄華を極めたローマ時代の都市は、今は砂漠のなかの廃墟となっている。はるか昔のローマ時代はここには法秩序があり、地中海のあらゆる人が集まる繁栄の地であった。しかし、今、国家がまともに機能しないこの地では、人は訪れることも、定住することもなく、かつての大都市は砂に埋もれていくしかなかった。
 砂から掘り出された遺跡のあまりの壮大さと美しさは、国家というもの、政治というもの、法というものが、いかに人間にとって大切かを物語って余りある。

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ローマ亡き後の地中海世界(下) 塩野七生著 新潮社

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